コンテンツのあり方と、未来
~“電子書籍”に縛られない自由なビジネス~
境真良氏 国際大学GLOCOM客員研究員
2012/4/19  2/3ページ

ビジネスの「べき論」を捨てる

―これまでの本ビジネスとは全く違う考え方ですね

境氏:作家側の考え方も変わります。現在、ネット上には文章が氾濫して、競争は激化しています。そのかわり本単体での月収が20万程度でも、講演会で登壇すれば1回5万円、売れてくれば1回で100万円という可能性もあります。作家はそういう生き方も模索しなければなりません。ここで「何が作家だ、音楽家だ」とか自分で規定するのもおかしい話です。


 私の知っている人に「AKB48はおかしい。AKB48のCDは握手券購入費*1で邪道だ! 本当にCDだけを売るアーティストがいいんだ」という人がいます。気持ちはわかりますが、そこまで自己規定するのは正直「アホか!」と思います(笑)。


―音楽に限らず「コンテンツはこう売らなくてはいけない」というルールを作る必要はないと。

境氏:法的に踏み越えてはいけない範囲はありますが、それを守る範囲で行うビジネスは自由です。日本をダメにしているのは、ビジネスはこうある“べき”だという「べき論」がはびこっていることだと思います。


コンテンツの形を決めつけるのは、発想を短絡にする
コンテンツの形を決めつけるのは、発想を短絡にする
 

 音楽で言えば「レコード」を買うようになったのは、ここ数10年。エジソンが蓄音機を発明する以前に音は買えず、演奏家に演奏してもらうか、楽譜を見て自分で演奏するしかありませんでした。AKB48 の握手券は「演奏家に直接会う」という、昔のビジネスに回帰した上、さらに音が出る媒体までつけています(笑)。本も同じで、大量印刷して売るなんて、この100年~200年の話です。500年前には出版文化はほとんどの国になく、本は借りて読み回すものでした。


 どういうことが言いたいかというと、コンテンツの形は自由で、時代の状況に合わせて変化するということです。本は今、そんな変わり目にいて、読者が読んでいる姿を想像しながら、それに適した形の表現を決める状況にきてしまったのです。これは難しいです。


スタイルの崩壊と確立と…

―読者が多様化していますからね。

境氏:状況が変わると様々な表現方法が可能になりますが、最後はカテゴリの支配的な表現方法が決まります。そこに至るまでに互いに選択されながら、読者も作家も試行錯誤を繰り広げます。でも読者だってスタイルを求めているのです。何故なら、コンテンツがどういうスタイルか予想ができないと買いづらいからです。


 漫画でいうと『のらくろ』は非常に静的でスクエアな表現でしたが、そこに手塚治虫さんがコマをぶち抜くなどのダイナミックな表現を流行させました。それで「手塚治虫的なスタイル」が漫画の主流になり、共通認識の「漫画」になったわけです。我々は、今、漫画というとそういう表現物だという共通理解のもとで作ったり、読んだりしています。


 それが電子化によって、これまでのスタイルが崩れて「絵が動く」「音が出る」など、様々な表現方法の競争が発生します。


 しかし「音が出る書籍」は可能ですが、読者としては授業中にこっそり読んでいるなど効果音が出たら困る場合もあり、読者は「電子書籍の漫画は音が出るのかでないのか」という相場観を知っておきたい事情もあります。また、音を消す読み方を考えると、スタイルとして「音が出ないと意味がわからないのはダメだろう」などの選別が競争の過程で起こるでしょう。つまり、技術でできることを全部やるのが「正解」ではない。


 電子に移ることは、紙が持っていた静止画像とページという制約から自由になり数多くの表現が考えられるようになった反面、その共通理解からも放り出されるわけです。


―自由の代償ですね。ほかにも電子化による大きな変化はありますか?

境氏:例えば紙の本に付けたQRコードから、WEBサイトにアクセスすると電子版が付いてくる本があります。こうすると紙の本を買った読者との関係性ができて、訂正を出したい場合や情報が更新された場合のアップデート、これまでなかったコンテンツごとの連携販売が普通にできるようになるかもしれません。ここで捕捉した顧客はその後の購買確度も高いです。


 コンテンツ産業は、本来的にエンターテイメントビジネスです。現在のコンテンツの作家は、演奏家、朗読家がネットワーク以前の印刷やレコードプレスといった古典的IT技術を使ってスピンオフ・改善した存在ですから、エンターテイナーが本来の姿です。技術の力でライブのお客から切り離された時代があったからといって、作品の向こうにいるお客を見ないというのはおかしい。作家自身も、IT技術で確度の高い顧客を補足したあと、顧客と向き合って、いかに気持ちをひきこむかが大事です。


 CDのような「作品」だけに範囲を絞ったビジネスではなくて、例えば「(AKB48のメンバー)前田敦子さんのファンが、常に彼女のことを考えるようにするにはばどうすればよいか」という風に相手に対して全人格を囲い込むような、言わば「女王様ビジネス」なるんですよ(笑)。


 (フリージャーナリストの)津田大介さんはTwitterに20万人もフォロワーがいて、普通はリプライなんて貰えません。でも、まれにリプライが貰えると「ああ! 津田さんからリプ貰えた!」ってなるわけですよ。そういう感覚とか、大事ですよね。

>>女王様ビジネスとITの利用

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