―スパコンの方向性、渡辺さんはどのように考えているのでしょう?
渡辺氏:いろいろ議論はありますね。要は技術でどこまでできるか、「理想と現実のせめぎあい」です。「京」のようにいろいろなアプリケーションで速く動くものがあればいいと思いますが、現実にはなかなか難しいと思います。ただ単に速いだけならいいのですが、制約条件が出てきます。
特に言われているのが電力の問題です。このまま計算速度が速いマシンになれば、エクサ(ペタの1000倍、100京)などのようなマシンを動かすには100メガワットの電力を消費することになります。そんなものは作ったところで動かすことができません。そうすると電力消費を今以上に増やさず性能の向上を目指すと、これは大変です。ですから、マシン的には特別なものにならざるを得ない可能性があります。極端に言うと、気象専門であるとか、分子の構造解析専門という専門的なマシンになる可能性もあります。
―2位でもいいからたくさんのスパコンを、という声も聞かれますが。
渡辺氏:そういう考え方もあります。しかし、そこそこのスパコンではできない計算もあるのです。精密さを求めようとすると計算力は限りなく高いものが必要になります。要は、とにかく速いスパコンに対しての投資をするかどうかになるのです。
これは私が判断できるものではなく、使う側の問題です。作る側からすれば、そこそこのスパコンの方が断然作りやすいですから(笑)。これからは「京」を使う側がどう活用していくか、ということになります。
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| 「費用対効果のみで科学技術は判断できない」 |
―費用対効果、という面ではどうお考えでしょうか?技術者の方は単純に上を目指している、というイメージなのですが。
渡辺氏:技術者は自己満足の面もありますね。文科省の試算では、「京」を活用することに1兆円くらい、と算出していますけれども。
ただ、費用対効果というものを言い出すと、お金で換算できないものもあるわけです。宇宙の起源を解明した、と言ったところで経済効果は出ません。未知のものに挑むので、リターンが0か1か、ということもあるわけです。
「南極探検」などは、当初何も価値を生みませんでした。しかし、南極での観測によってオゾンホールの問題などがわかってきて、フロンの規制となりました。お金だけの問題ではないんですね。
―お金のことを考えて技術革新を抑えよう、という社会の風潮になったらどうしますか?
渡辺氏:私は戦後の教育で、「復興には科学技術だ」ということをたたき込まれてきたのもありますが、これから、少なくとも日本という国を維持するだけでも科学技術に頼らざるを得ないと思います。生活レベルを下げるなら話は違ってきますよ。
―技術の牽引車としてのスパコン。その技術者として、どのようなプライドを持って取り組まれていますか?
渡辺氏:プライドですか…、難しいですね。時にはくそみそに言われたりすることもありますが(笑)、非常にやりがいのある仕事ですね。プライドがなければやれなかったのではと思います。
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【渡辺貞氏 プロフィール】わたなべ ただし |
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注釈
*:FLOPS(FLoating point number Operations Per Second)
1秒間に何回浮動小数点演算ができるか、というコンピュータの処理速度単位。