月島食道楽:天ぷら 丸中

天ぷら定食。目の前で揚げたばかりの天ぷらがこれだけついて、ランチタイムは\900(税込)。揚げたてというだけではなく、ご主人の細やかな工夫が絶妙な歯ごたえの天ぷらを作り出している

第38回「天ぷら 丸中」

職人気質のご主人が黙々と作るこだわりの天ぷら

2014/6/26

 熟年夫婦が息の合った手際で、天ぷらを揚げ続ける。昼時ともなればカウンターは常に満席。ときおり外から中の様子を覗き込んだ客が、黙って扉の前に列を作る。


 もんじゃストリートの、勝どき方面のはずれにある「天ぷら 丸中」。月島で20年間ひたすら天ぷらを提供し続けている。メニューのほとんどは、もちろん天ぷら。とにかく目の前で揚げる天ぷらは絶品で、衣のサクサク感、閉じ込められた魚介類の香り、野菜の旨みに食がついつい進んでしまう。


 夜も酒は提供しているが基本的には晩酌ではなく晩御飯。ほとんどの客は天ぷらを食べて帰る。昼の天ぷら定食は、季節や仕入れ状況により多少の変動はあるが、海老天2尾、白身魚の天ぷら2枚、野菜天3枚。注文を受けてから揚げるスタイルで、この量。ボリューム・味、値段で考えるとかなり格安に感じる。


 「(銀座方面を指して)川の向こうで天ぷらを出す店だと、コースで決まった天ぷらだけが出て、値段も高いでしょう? うちは頼まれたら1個から揚げちゃうんだから、商売としては下手くそだと思いますよ」


 笑いながら話すのはご主人の青木正貴さん。元は祖父の代、明治期から続く浅草の割烹料理店の3代目。錦糸町、築地にも青木さんの兄弟が営む店舗がある。

店内には昭和初期に浅草の店舗前で撮影したものなど、貴重な写真が飾られている
店内には昭和初期に浅草の店舗前で撮影したものなど、貴重な写真が飾られている

 営業時間になると黙って天ぷらを揚げ続けているご主人。ご飯をよそい、皿を並べて配膳する奥さんとは阿吽の呼吸。言葉少なくカウンターに並んだお客さんに料理を出し続ける。しかし、天ぷらのことについて聞くと、実にアツい口調で切り出した。


 「揚げたてだからおいしいと言う方がいらっしゃるけど、そうじゃなくて、おいしく作ろうとしているから、おいしいんです」


 なるほど、確かに。おいしくしようと様々な工夫を凝らしてしているのに、おいしかった理由を「揚げたて」と言われては、甲斐がない。天ぷらは客の目の前では揚げるだけだが、その前段階には営業時間以上の仕込みがある。仕入れ段階での素材選定から、その日の気候、その日仕入れた食材の良し悪し…毎日変化する食材に合わせたベストの調理を、長年の勘で調節している。

厨房に大きく構えたフライヤーで浮かぶ天ぷらを手際よく捌いていく
厨房に大きく構えたフライヤーで浮かぶ天ぷらを手際よく捌いていく

 「とにかくお客さんにおいしいものを出したい。帰り際においしかったと言ってもらえるのが、何よりうれしいです」


 大きなもうけよりも、おいしいと言ってもらいたいという、商売人というよりは、こだわりの強い職人気質な青木さん。そんな青木さんの天ぷらにはファンも多いようで、10年来のリピーターもいる。ただご夫婦の子どもが娘さんだけのため「後継ぎはいない」と話す。


 「私たちが辞めたいと思ったらそこで店じまいをする。いつまでもやらなくていい、と気楽にやっているからこそ続いています」


 少し寂しい気もするが、いつまでもお元気で天ぷらを作り続けてほしい。外からのぞいて席が空いていたら、是非立ち寄って、帰り際に「おいしかった」と伝えたいものだ。

(井上宇紀)
天ぷら 丸中

天ぷら 丸中
住所:東京都中央区月島3-15-7
電話番号:03-3531-6463
営業時間:11:30~13:30 17:00~20:00(土日はランチタイムなし)
定休日:不定休