月島食道楽:いし津

よく注文される福コース(\8400)。品目は季節によって変わる。8月下旬の取材時は、本マグロとヒラマサの刺身、松茸と小松菜のおひたし、鱧(ハモ)の照り焼きなどが出された

第30回「いし津」

都会の喧騒を忘れさせる月島の「隠れ家」

2013/10/17

 月島駅10番出口から、エゾシカ料理「まくら木」にほど近い小路を入ると、昔ながらの一軒家があらわれる。玄関の上にある木の看板に「いし津」の文字がなければ、民家と見間違えてしまいそうだ。


カウンターからは店主の食材をさばく姿
を眺めることができる
カウンターからは店主の食材をさばく姿を眺めることができる

 月島食道楽第30回は、月島の街並みに溶け込んだ「隠れ家的な」雰囲気で和食を楽しめる日本料理店「いし津」を紹介する。


 店に入ると、職人気質の店主・石津正一さんが調理している様子をカウンター越しに眺めることができる。カウンター席は気軽に店主に話しかけられ、魚など料理をさばく手つきも見て取れる。店主は、もともと銀座で日本料理の店を出していたが、3年前に地元の月島に戻ってきた「月島っ子」。築地に行き、その日一番のものをお客に振る舞い、食を楽しんでもらうことを心掛けている。


 奥に案内してもらうと、畳の部屋に掘りごたつのあるお座敷が広がる。部屋の明かりも、襖や木の柱に反射して、得も言われぬほどよい雰囲気を醸し出している。畳に座り窓の外を見ると、趣深い坪庭を眺めることができ、風情を楽しめる。せわしい都会の喧騒をしばし忘れさせてくれるほど、ゆったりとした時の流れを感じさせてくれる。


 味わい深い木造建築は、60年以上前に建てられた自宅に、月島の空気を壊さないよう、お店用に改築したもの。本格的に手入れすることになれば、宮大工が必要になるくらい途方もない費用がかかるはずという。しかし、「住んでいれば家は傷まないもの」と店主。なるほど、意識してあれこれ手を入れるより、まずは「住むことが大切」というわけだ。

案内された畳の部屋。窓の外には趣深い坪庭が見える
案内された畳の部屋。窓の外には趣深い坪庭が見える

 こうした隠れ家的な雰囲気に魅力を感じる人が多く、夜のコースは接待に使う人がほとんど。一方ランチは、限定10食の松華堂弁当(2000円)を地元客がよく食べにくるという。本日頼んだのは、福コース(8400円)。この日は、本マグロとヒラマサの刺身、松茸と小松菜のおひたし、冬瓜のカニあんかけ、鱧(ハモ)の照り焼き、タコごはんなどをいただいた。


 鱧の照り焼きは、脂ののった鱧にタレが絡んでいて、口当たりのよいおいしさ。また、松茸のおひたしは、旬の食材だけあって、香り高く、まろやかな味を楽しむことができた。本マグロとヒラマサの刺身も、その日築地から選んだだけあって鮮度抜群。冬瓜のカニあんかけも、他の料理とバランスのとれたよいアクセントになっている。落ち着いた店の雰囲気も、素材をじっくり味わうのに一役買っている。


 料理を堪能しながら月島について話すと、「みんな長屋だったものが、立ち退いてビルになってしまった。西仲通り商店街も、今ではもんじゃ焼き屋が多くなった」(店主)と、昔の月島を懐かしむ様子。


 「懐かしい気持ち」の一方で、月島の街がきれいになり、今までなかった人の流れができるなど“新しく生まれ変わる”のは歓迎という。そんな粋な月島っ子がさばく素材を、昔ながらの佇まいの中で楽しめる「いし津」。時間を忘れて「月島」を感じることのできる貴重な店だ。

(山下雄太郎)
いし津

いし津
住所:東京都中央区月島4-3-19
電話番号:03-5546-0349
営業時間:11:30~14:00(ラストオーダー 13:30)
 17:00~22:00(ラストオーダー 21:30) 要予約
定休日:日・祝
HP:http://www.isidu.com/