特集 普及を目指す介護ロボット
高齢化社会日本が誇る有望な技術

2014/5/29  3/3ページ

「身近に」「手軽に」を意識したマッスルスーツ


 安川電機が移乗補助ロボットの重さの改善に取り組むように、介護ロボットを市場に普及させていくためには、より「汎用的に」製品をカスタマイズしていく必要がある。HALについても、装着に時間がかかり、歩行訓練時にはPTの付き添いが必要など、汎用性には課題も残る。

東京理科大学 小林宏教授
東京理科大学 小林宏教授

 そこで、とにかく「手軽に身近に」利用してもらうことを重視したのが、東京理科大学・小林宏教授が開発に関わる着用型筋力補助装置「マッスルスーツ」だ。小林氏はカメラや携帯電話の部品を手掛ける菊池製作所と共同でマッスルスーツを開発した。装着すれば、空気を取り込んで伸び縮みをする人工繊維の力で、腰を使った持ち上げ作業を楽に行うことができる。


小林教授が開発に関わる「マッスルスーツ」(出典:小林研究室)
小林教授が開発に関わる「マッスルスーツ」(出典:小林研究室)

 小林教授は開発時、介護のみを特別意識したわけではなかった。介護に限らず、様々な労働の現場で腰痛が生じているため、それを解消することを目指し、開発に取り組んできたという。


 腰補助用として企業に働きかけたところ、一番話が進んだのは静岡県にある訪問入浴介護の会社・アサヒサンクリーン。すでに試作品100台の導入が決まっている。今後は菊池製作所と協力し、マッスルスーツを月2万円程度でレンタルすることで普及を目指すとしている。


介護ロボットを普及させるために


 紹介してきたように有望な技術が出ている介護ロボットだが、普及に関しては全体的にまだこれからという印象だ。1つのカギは価格面。1台2000万円もする高額な介護ロボットでは普及はままならない。経産省も低価格化を視野に入れた研究・開発を進めている。産総研・比留川氏は「現状では価格競争に程遠い」と指摘している。


 また、介護の現場で本当に必要なものをつくることができるかも重要だろう。例えば社会福祉法人が運営する介護施設は、介護保険からの収入や法人税が非課税になるなど税制上のサポートがあるものの、健全な財政運営に努めるよう行政指導を受けなければならない。加えて建物の老朽改築・修理などの負担もある。現状の体制でなんとか運営を維持できるのなら、介護ロボットのためにあえて投資に踏み切る必要もない。そのため介護ロボットを導入することで「サービスの質が上がる」ということを施設側へ証明する必要があるというわけだ。


 こうしたなか、まず普及の可能性があるのが、介護を手がける民間企業だと比留川氏は指摘する。「民間企業が運営する施設では、80%の入居率が損益分岐点だと言われている。入居率を上げるためにはサービスの質を上げる必要がある」(比留川氏)。導入によりサービスの質が高まることがわかれば、介護ロボットの普及は十分考えられるとのことだ。


 介護を手がける民間企業のうち、ニチイ学館など大手の売り上げは2000億円程度で、M&Aなどによる拡大もありうる。そこで費用対効果が見込まれ、民間の介護事業者が購入すれば、普及の可能性は高い。そこに行きつくためにも、まずは介護の現場で、介護者・要介護者の役に立つ、あるいは現状よりも目に見えて効果が実証されるものをつくる必要があるだろう。


 高齢化社会に向けて、介護ロボットは社会に確かな一歩を踏み出している。安全性に細心の注意を払い、介護現場に本当に役立つものをつくり、「使用すれば介護の質が上がる」と現場に認められることが、普及への近道となりそうだ。

(山下雄太郎)

注釈

*:介護ロボット
ここでは主に高齢者の介護(排泄支援、移乗支援、歩行支援、見守り支援など)などに使われるものを指す。セラピー・コミュニケーションを目的としたロボットは対象外としている。

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