特集 普及を目指す介護ロボット
高齢化社会日本が誇る有望な技術

2014/5/29  2/3ページ

リハビリ現場で活躍が期待される「HAL」


 神奈川県の事業では公募の結果、社会福祉法人同塵会・医療法人社団成仁会が選ばれた。同法人では現在、運営する特別養護老人ホーム「芙蓉宛」や長田病院(横浜市戸塚区)で介護ロボットを含む生活支援ロボットを試験的に活用している。長田病院ではロボットスーツ「HAL福祉用」(以下:HAL)を、脊髄ろう(脊髄の神経に障害がある病気)や麻痺足(下肢が麻痺する病気)患者などのリハビリに活用している。

長田病院で使われている ロボットスーツHAL(動画)

 HALは、介護ロボットなどを開発している大学発のベンチャー企業・サイバーダインの社長で筑波大学教授の山海嘉之氏によって開発された歩行支援型介護ロボット。足の弱い高齢者や下半身に障害がある人が装着し、歩行訓練を行える。


 HALの仕組みはこうだ。人が動くとき、脳から筋肉に神経信号が伝わる。その際、意思を反映する微弱な生体電位信号(情報伝達時に発する電気信号)が皮膚の表面に現れる。その信号を、装着者の皮膚に着けたセンサーで読み取り、その情報から筋肉の動きと連動し、装着者の動きをサポートする。


 HALを扱うには、理学療法士(PT)が、サイバーダインから特別な講習を受けてHALの扱いに習熟する必要がある。また理学療法士はHAL使用時に患者のリハビリ歩行に付き添わなくてはいけない。PCで歩行のバランスを確認し、歩行の癖や偏りに適切なアドバイスをする。


 HALはPCとつなげることで患者の様々な症状に合わせた微調節ができる。長田病院・理学療法士の佐治周平氏は「機械が勝手に歩くパターンを組むのではなく、その人の生体電位を拾って患者の歩きたい動作に合わせて瞬時にサポートする。患者が動く意思を示してからHALが動くまでのタイムラグがほとんどない」とHALの特長を指摘する。


 HALの技術は海外でも高い評価を受けている。ドイツでは2013年8月に脊髄に障害がある人や、脳卒中に対して行う治療を全額保険でカバーできるようになるなど、運用が進められている。


産総研が取り組む介護ロボットの評価


 HALは国際安全規格に準拠したISO13482の原案版を2013年2月に初めて取得。パナソニックの車椅子・ベッド一体型の介護支援機器「リショーネ」もISO13482を取得している。


 介護ロボットの世界では、安全性の確保が普及・利用への生命線だ。茨城県つくば市に研究所を置く産総研では介護ロボットに関する安全評価が行われている。ここでは介護ロボットに起こりうるリスクを発生確率と危害の大きさで表すことで、様々な試験を行い、安全性を検証している。


 例えば実生活で活用するためには介護ロボットがどういう動きをするか、どんな環境でどの利用者が使えるのかを調べる必要がある。産総研がこうした状況を想定して分析を行い、許容範囲だと判断すれば製品化への道が開かれるというわけだ。


 産総研で知能システム研究部門長を務める比留川博久氏は「零細企業がつくる介護ロボットは、リスクアセスメントの方法がわからないことが多い。『経験上、これでよいのでは』と判断してしまう。今後、大規模に普及させて最終的に海外に輸出することを考えると、きちんとしたものをつくって製品として出す必要がある」と話し、介護ロボット評価の重要性を説いている。

産総研・知能システム研究部門長
比留川博久氏
産総研・知能システム研究部門長 比留川博久氏

安川電機の移乗アシスト装置


 産総研が有用性・安全に関する評価を実施し、メーカーが製品を改良する。産業用ロボットなどを開発している安川電機では「移乗アシスト装置」の開発について産総研からアドバイスをもらい、実際に改良につなげたという。そのため、メーカーの産総研への信頼も厚い。


 同社では、介護者の腰への負担をなくすため、介護ベッドから車いすへの要介護者の抱え上げをサポートする製品を開発している。この装置はアームと、スリング(吊り用具)を備えており、介護者が1人で要介護者をベッドから車いすに移乗することができるといったものだ。

安川電機のつくる移乗アシスト装置(出典:安川電機)
安川電機のつくる移乗アシスト装置(出典:安川電機)

 もともと安川電機は医療機器分野・リハビリ機器に10年以上の実績がある。そこで同社がもつ技術を応用した非装着型の介護ロボットを新しく考案した。


 安川電機側から有用性について産総研に意見を求めたところ、移乗後の活動し易い姿勢が大事であること、また安全性については、スリングシートは皮膚の弱い人だと擦り傷になりやすいので工夫すべきという意見があっため、車いすを研究し改良を行った。こうした細かい取り組みなどが功を奏し、同社は経産省などが重点を置く開発補助企業42社に選ばれている。


 製品の課題は、装置の重さ。キャスターが付いているため、移動における不便はある程度解消されているが、軽量化、コンパクト化など改善すべきところがあるという。また価格をできるだけ抑えることでさらなる普及を目指している

>>身近に使われるための取り組みとは?

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