特集 薬のネット販売全面解禁 その動向を追う

2013/9/30  3/3ページ

関東学院大・岡嶋氏の見解


 一方IT技術に詳しい関東学院大学経済学部准教授の岡嶋裕史氏は、薬のネット販売解禁自体には賛成という立場をとっている。「『薬を置いて必要なときに飲んでください』という富山の置き薬のように、対面販売ではない売り方がこれまでの医薬品の小売販売にはあった。それを考慮すれば、法規制のかけ方として、富山の置き薬はいいけど、ネット販売はダメというは、ロジックとしてつじつまが合わないはず」としている。


 厚生労働省が1類・2類のネット販売に対し、これまで規制をかけてきたことについては「2006年に改正した薬事法では、ネット販売については特に触れられてはいなかった。しかし、省令として厚生労働省が法律以上の網をかけたことについては、ネットは危険という思いがあったはず」と話す。


 しかし、ドラッグストアなどの実店舗でも対面で毎回、しっかりした説明がされているかというと、確実ではない。もちろんネットも「相手の顔が見えない」「成りすましがしやすい」という問題点があり、双方ともさらに安全に関する議論が必要なはずだ。そのため、岡嶋氏は「ネット対対面販売のように、わかりやすい構図で議論されてしまうことで、本当に求められる安全対策まで話ができない」と指摘する。 

関東学院大学経済学部准教授 岡嶋裕史氏
関東学院大学経済学部准教授 岡嶋裕史氏

 医薬品をネットで販売する場合、安全性の担保など、厚生労働省などが要求するだろう要件を満たそうとすると、システム構築に関する課題もいくつかでてくる。1類に求められる説明義務については、チェックリスト方式では、利用者が読み飛ばす可能性もある。利用者が、購入をするうえで納得できるような体制の構築が望まれる。


 さらに、岡嶋氏は将来的に検討されている個人番号との絡みが、薬のネット販売に新たな拡がりをもたらす可能性があると指摘する。「例えば個人番号と一般医薬品の購買履歴を紐づけることで過去の投薬状況を医者が把握できる」(岡嶋氏)。薬局だけではなく、ドラッグストアなどの一般医薬品の状況までつかむことが可能になれば、ネットでの販売にも新しい地平が見えてくるだろう。


議論を重ねることで「段階を踏む」


 前述のJACDSでは「セルフメディケ―ション」という考え方を推進している。セルフメディケーションとは市販の医薬品で自分自身を日常的にケアして、重症化しないように予防していく考え方を指す。特に、医療費の多くを占めるのは、高齢者の生活習慣病関係であり、生活習慣病の予防、未病改善、重症化の抑制・防止が超高齢社会の日本の急務となっている。


 そのため医療用から市販品となった医薬品(=スイッチOTC)などは、効用や副作用を利用者が理解した上で使用できるよう丁寧に説明されることが望ましいと本吉氏は話す。「セルフメディケーションを推進するためには、ネット販売に関して現在、議論が進められている『スイッチ直後品目』など、一般販売における副作用(リスク)が懸念される薬について、安全面を考慮し、対面での販売が欠かせない。これから生活習慣病薬が一般用医薬品に移行され、薬剤師がきちんと情報提供、相談応需、受診勧奨することが重要」という見解をJACDSは示している。そして、こうした見解を多方面に訴えかけていく予定だ。

薬のネット販売の適正なルールをつくるための議論は続く(写真はイメージです)
薬のネット販売の適正なルールをつくるための議論は続く(写真はイメージです)

 2013年9月末には厚生労働省で話し合われている販売ルール策定作業グループで結論がでているとはいえ、日々変わるネット環境に対応するため、引き続き議論の場は必要になってくるだろう。購買する側と販売する側が納得のいく「薬のネット販売」が行えるよう、逐一、落としどころを決めていくしか道はないだろう。


 関東学院大の岡嶋氏も「今話し合われている取り決めは、薬のネット販売全面解禁への過渡期に行われる重要なもの。どのような事故が起きるか、という蓄積もないため今の段階で、ネット販売に慎重になるのは、必要なステップだろう」と指摘する。


 大きく普及したネット販売の「大きなうねり」は、薬の販売ルールを大きく変えた。利用者の安全と利便性が共存した適正なルールつくりが求められていくだろう。(2013年9月24日時点まで取材したものを掲載)

(山下雄太郎)

注釈

*1:第1類医薬品は4つに分類
・いわゆるダイレクトOTC(新たに承認された医薬品のうち、再審査期間+1年を経過していないもの)
・いわゆるスイッチOTC(新たに承認された医薬品のうち、製造販売後安全性調査機関+1年を経過していないもの。文中に出てくる「スイッチ直後 品目」もこれに含まれる)
・人体に使用しない殺虫剤などのうち、毒薬・劇薬に分類されるもの
・厚労省告示により指定されるもの

*2:スイッチ直後品目
スイッチ直後品目23品目に劇薬指定5品目を加えた表はこちら(「スイッチ直後品目等一覧pdf」)。

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