特集 「マイナンバー」仕組みを徹底分析
個人番号カードとは? システム構築は?
2013/5/9  2/3ページ

 マイナンバーが記載された「個人番号カード」は正式な国民IDカードではない。その理由を中村氏が解説する。「憲法10条に『日本国民たる要件は、法律でこれを定める』と書いてあり、国籍法がこれに該当します。しかし、国籍法を見ても、国籍がどう証明されるかが書かれていません。さらに条文を読み込んでいくと、戸籍法に当たるんです」(中村氏)。


三菱総合研究所参与 中村秀治氏
三菱総合研究所参与 中村秀治氏

 この戸籍法で、ようやく「日本国籍を公証する唯一の制度は戸籍である」ことがわかるのだという。戸籍の管轄は自治体の市町村長が行っているため、国として個人を証明する制度にはなっていないのである。「今の番号法は『個人の証明になる』ということが言われていますが、法律には書いてありません。書けるわけがないんです。戸籍法や国籍法の問題にタッチしていませんから」(中村氏)。


 マイナンバー法案の根拠法は住民基本台帳法である。本当に国民IDカードを作るとなると、国籍法、戸籍法などの改正を含めた「本人確認法」のような法律が必要になってくるのだ。結局、「個人番号カード」も運転免許証の延長に過ぎず、日本国民であることの証明をしてくれるカードはないままである。


 こうした問題を含んでいるためか、民主党政権時のプレゼンテーション資料には存在していた「マイナンバー」の文字も、今国会(2013年通常国会)で修正提出された法案に関しては、プレゼンテーション資料に通称としても入っていない。「社会保障・税番号制度」と、淡々と記載されているのみである。


個人番号カードは便利か


 では、海外の「国民IDカード」動向はどうなっているのだろうか。ドイツでは、2010年から新たな身元確認の法律が施行され、パスポートと同等の機能を持ったICカードが発行されている。付与されるeIDは民間企業も利用が可能で、官民共通基盤の仕組みが出来上がっている。民間企業が利用する際は、事前にアクセス権限の審査が設けられるなどの措置がなされている。


 米国では、国民IDに関して、民間企業で使われているIDを利用して電子政府を構築する「トラストフレームワーク」という枠組みを活用しようとしている。米国で「番号」というと、映画などで見かけるSSN(社会保障番号)が有名だが、これは国民IDではなく、文字通りの社会保障番号だ。今回のマイナンバー法案と同じ性質のものである。


 各国は国民IDシステムの構築に取り組んだり、実際に稼働したりする動きがある。しかし、今回の日本のマイナンバー法案で提示されているのはあくまで「税・社会保障の名寄せ」のための番号、そしてカードなのである。


 加えて、マイナンバー普及でネックになると思われるのが、「マイ・ポータル」へのアクセスだ。現在想定されているのは、個人番号カードをカードリーダーで読み取ってログインさせる、という方法である。

国税庁のe-Tax案内画面 出典:国税庁HP(クリックすると拡大します)
国税庁のe-Tax案内画面 出典:国税庁HP
(クリックすると拡大します)

 カードリーダーを使った行政サービスでは、住基カードと電子証明書の発行が必要な国税庁の電子申告システム「e-Tax」がある。利用率は2011年度分の申告で52.7%。2007年度の23.1%に比べるとほぼ倍増。「e-Tax」を利用して確定申告をすれば3000円の税控除が認められる(2012年度申告分)、などの利用促進策も並行して行われている。


 内閣官房は「セキュリティのため」というものの、日本の生活環境を見ると、スマホやタブレットなどデバイスが多様化し、オンラインバンキングも一般的に行われている。この現状で、カードリーダーを持ちだして認識させる手間が、ユーザ(国民)にどれほど理解されるだろうか。


マイナンバーシステム開発の課題


 ここまでマイナンバーの位置づけに触れてきたが、今度はマイナンバーのシステム開発にも目を向けたい。マイナンバーは中央省庁・都道府県・市町村など、行政機関での連携が想定されている。


 政府発注の情報システム開発というと、残念ながら記憶に新しいのは特許庁の基幹システム刷新プロジェクトの破綻だ。報じられているところによれば、特許庁側の発注時の要求が絞り込めないままプロジェクトがスタート。業務・システムを把握する職員やエンジニアが不足し、2011年1月の稼働予定を3年遅らせたにもかかわらず、頓挫してしまった。


 ともすれば発注側と受注側のすれ違いが気になるところだが、翻ってマイナンバーのシステムはどうか。三菱総研の中村氏によれば、現時点(4月19日現在)では、行政で使われている既存の業務システムや業務フローの分析と並行して、法案審議が行われている状態だという。


 「本来ならば、機関をまたぐ場合のやり取り、例えば市町村側から都道府県側に情報を求める時はどのようにやり取りしているのか、などを調査・整理する。そのうえで共通基盤の仕様が要件として出てくる、というのが理想です」(中村氏)。


 税と社会保障の共通化がマイナンバー法案の骨子であるが、官公庁や自治体をつなぐシステムであるだけに、費用もそれなりに大きくなる。システム構築に190億円程度が想定されている。地方自治体とのシステム連携やマイ・ポータルの構築を含めた総額は「カードリーダーの仕組みを含めて約2000~3000億円」(内閣官房・藤井氏)とのことだ。


 「システムにかかわる要件がきちんと出てから『この番号システムで行けるんじゃないか』となって、予算が出されればいいのですが、役所の共通基盤システムなどの受注は、いわゆる官公庁営業が行っています。なので、基本的にはコスト高になってしまうんです。決して『こちらの方が安いですよ』という提案はしませんから」(中村氏)。BtoBで行われているクライアントとのシビアなやり取りに比べると幾分ゆるくなってしまう、という指摘だ。

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