特集 進む学校のICT活用と
デジタル教科書普及
現実味をおびる紙とデジタルの併用
2013/4/8  3/3ページ
国立情報学研究所教授 新井紀子氏
国立情報学研究所教授 新井紀子氏

導入は慎重にすべきという意見も


 教科書会社によって充実してきたデジタル教科書。しかし、国立情報学研究所教授の新井紀子氏は、特に小学校低学年への導入に対して慎重とする姿勢を見せている。デジタル教科書は生物や地学など、これまで黒板で見せることが難しかったものについて、図やイラストを表示することで生徒の理解を促すすぐれたツール。ただ、算数・数学に関して、タブレットに電子ペンなどで入力を行うというのは、インターフェースとして明らかに不十分としている。


 また新井氏は算数のドリルなどにゲームの要素を入れることで、それを体験した児童がいくらでも熱中してしまうと指摘。答えが正解なのか、間違っているのかだけに終始してしまい、算数の考え方そのものは身につかない恐れがあるとして問題視している。


 このようにデジタル教科書導入のデメリットを指摘する意見もある一方で「メリット・デメリットを指摘するという時期ではもはやなくなってきている」と説明するのはDiTT(デジタル教科書教材協議会)の副会長で慶応義塾大学教授の中村伊知哉氏。導入しないことのリスクの方がはるかに大きいと解説している。


DiTTの取り組みと中村伊知哉氏の見解


 もともとDiTTは前述の「原口ビジョン」やスマートフォンやタブレットの登場が背景となって誕生した業界団体。総務省・文科省が行う実証研究に関与するほかにも、紙の教科書しか「正規の教科書」として認めていない学校教育法について、デジタル教科書も含めるよう法改正を訴えていく活動を行っている。


 中村氏はこれまで日本の教育現場におけるICT導入があまり進んでこなかった理由として、日本の教育が成功していたことを指摘している。つまり、高度経済成長を支えた日本の教育モデルの完成度が高く、そのシステムを変える必要はなかったというわけだ。しかし10年前には上位だったPISA(OECDの学習到達度調査)の順位も落ち、日本の教育の問題点が取り沙汰されるようになった。お隣の韓国は日本の教科書を手本に作ってきたがそれも今や昔の話。そのため、学校のICT導入やデジタル教科書普及が日本の教育を見つめ直す1つのきっかけにつながるとしている。

DiTT 副会長 中村伊知哉氏
DiTT 副会長 中村伊知哉氏

 その韓国はすでに、デジタル教科書を普及させるために法律を改正。授業で使う端末についてはスマートフォンでもタブレットでもよいという「端末フリー」を実施。標準化された教材をクラウドにおき、授業で使用するものを取り出せるよう進めている段階だ。こうした国際的な流れに日本も取り残されないためにも、教育現場におけるICT導入やデジタル教科書の普及を推し進めていく必要があるというわけだ。


大切なのは紙と併用するという考え


 ただ中村氏は紙や鉛筆を捨てて、すべてデジタルにすればよいわけではないと強調する。「紙の良さとデジタルの良さ、お互いの良いところを使えばいいというだけの話。併用していくことの良さを理解して取り組めばいいのに、デジタルにすることのデメリットが先立っている」としている。


 教科書会社もデジタル教科書は紙の教科書の代わりになるまでには至らないという意見だ。光村図書出版の森下氏は「教科書に関する法律や著作権の契約などを全て変えることになると、相当時間もかかる」と指摘。端末自体の寿命も3年~5年程度である以上、今すぐ紙にとって代わるには、時期尚早だと言わざるを得ない。


 「日本のようなIT先進国で生徒に学力をつけさせるためにはデジタル教科書の活用が効果的なのではないか――そういう意見を教育の現場でよく耳にする。そうした期待に応えるべくITインフラに応じた教育を提案するのは我々に課せられた使命」と光村図書出版常務取締役企画開発本部長の鷲巣学氏も話している。今まで紙の教科書で行っていた授業にデジタル教科書の良さを加えることで、効果的な学習を生み出せるとしている。


 社会にタブレットがここまで普及している以上、教育現場でも活用するシーンが増えるのは、もはや必然の流れだろう。慎重に導入すべきという意見に耳を傾けつつ、まずは紙の教科書とデジタル教科書を併用していくといった流れが有力といえそうだ。中村氏は2013年に入ってから、荒川区以外にも同様の動きが他の自治体で増えていると説明しており、予想したよりも生徒1人1台のタブレットやデジタル教科書の活用が早まるのではと実感しているという。


 加速する学校のICT活用とデジタル教科書普及の動き。学校の授業風景には、教科書の隣にタブレット・デジタル教科書という光景も、もはや珍しくない時代がすぐそこに迫っている。

(山下雄太郎)

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