
2013年2月、荒川区が全小中学校に1人1台のタブレットPC(以下:タブレット)の配布を決めるなど、教育現場でタブレットを使用するシーンが増えようとしている。背景には総務省や文部科学省が、2010年より学校でのICT導入やデジタル教科書に関する実証研究を行ってきたことが挙げられる。教育現場におけるICT活用やデジタル教科書普及の動きについて迫った。
民主党政権だった2009年。原口一博総務大臣の「あらゆる分野においてICTの徹底利活用を促進する」という方針(いわゆる原口ビジョン)が出され、日本の教育現場におけるICT導入の検討が本格化した。この方針をきっかけに、政府は2010年5月に「新たな情報通信技術戦略」を策定し、総務省は2010年8月より情報通信技術面の検証を行う「フューチャースクール推進事業」を開始。文部科学省が行う実証研究(後述)と同一の実証校20校(小学校10校、中学校8校、特別支援学校2校)で適切な役割分担の下、一体的に実証研究を行うこととなった。
実証校では、先生が使う電子黒板(インタラクティブ・ホワイト・ボード)を学校の普通教室に各1台、iPadやノート型のような様々なタブレットを児童・生徒へ1人1台配備し、これらのICT機器を無線LANで結ぶICT環境を構築した。
ただ、実証校といっても先生がICTに詳しいわけではない。そのため導入当初は、生徒がもつタブレットからの一斉アクセスによって、無線LANがつながりにくいといった不便もあったという。現在はそうした不便も試行錯誤のうちに解消され、教育現場でICTを利活用するためのノウハウが蓄積されてきた。「普段の授業でどんどん使っていただき、活用の幅も広がっています」と総務省情報流通行政局の担当者は話している。
この実証研究により、タブレットや電子黒板を使うことで生徒の学習意欲や、授業への関心・集中力が高まることがわかってきた。さらに先生のICTリテラシーも向上。特にベテランの先生は指導方法を確立しているので、ICTをどうやって授業に取り入れればよいかの判断が上手との声も聞かれるということだ。
この総務省の「フューチャースクール推進事業」が主として情報技術面でICT技術の実証研究を行っているのに対し、ソフト面から実証研究を行っているものが文部科学省の「学びのイノベーション事業」だ。デジタル教科書もここで検証されている。
「フューチャースクール推進事業」で進められている1人1台のタブレットや電子黒板等が整備された環境で、デジタル教科書・教材を活用した教育効果の検証や指導方法の開発が進められる。デジタル教科書とは一般的にデジタル機器や情報端末向けの教材のうち、既存の教科書の内容に加え、編集・移動・削除などの機能を備えているものを指している。
この実証研究では、例えばタブレットに子どもがデジタル教科書で手書きやペンで入力して解いた答えを電子黒板に転送して表示。子ども同士の発表に利用したり、別の子どもの回答を参考にすることで子ども同士の学び合いが行われている。個別学習の場合も、例えばタブレットに立体図形を表示し、自らそれを回転させて確認するなど、紙の教科書では難しかったことを行い、子どもの理解を深めている。
この「学びのイノベーション事業」は2011年度から始まり3年間で成果をまとめることとなっている。「2013年度は最終年度であり、その成果などを踏まえつつ、デジタル教科書の位置付けなどを含め、今後の教育の情報化の方向性を検討していくことになると考えられる」と文部科学省の担当者は話す。
総務省・文部科学省が行うこれらの実証研究を行っていくうちに、自治体のなかにも効果があるならば管轄の学校に導入してみようというところも出てきた。今回の荒川区の決定も、こうした取り組みを総合的に判断して踏み切ったものだ。