特集 最先端医療はどう“効く”のか?
がんワクチン・陽子線治療・人体通信網(BAN)の夢と現実
2012/12/3  1/4ページ

「健康」は何ものにも代え難い。12月特集は最先端医療についてお届けする。年末特集として3回に渡り「がん免疫療法」「陽子線/重粒子線治療」「人体に取りつけた通信網による常時モニター」をそれぞれ取り上げていく。第1回は第4のがん治療法と言われる「がん免疫療法」と免疫療法のホープとして期待される「がんペプチドワクチン」についてだ。

第4のがん治療法「免疫療法」の登場


 2010年、がん治療の世界に激震が走った。米国において、がんの免疫療法に関する治療薬が保険承認されたのだ。


 免疫療法とは、文字通り人間の持つ免疫細胞の能力によって治療をする方法だ。もちろんがんに対しても免疫を使う研究はかねてより行われてきた。しかし、実際には成果が得られず、期待しては失望を繰り返しということを実に50年近くも繰り返してきたのだ。


 そのような中、ついに米国でプロベンジ(Dendreon社)が前立腺がん、エルボイ(Bristol-Myers Squibb社)がメラノーマ(皮膚がん)に一定の延命効果を示した。その成果を受けて保険承認がされたのだ。


 これまでがんの治療には

1:外科手術
2:抗がん剤
3:放射線

の3つが行われてきたため、免疫療法はこれに加えた「第4」の治療法と言われるようになった。


免疫療法の仕組み


 人間には免疫があり、体に侵入した外敵から守る作用を持っている。免疫療法は、文字通りこの人間が持つ免疫細胞を活性化させ、がんを攻撃させることで治療を行うものだ。ただ免疫療法と言っても、大きく2つに分類される。それが「ワクチン」と「抗体」だ。


 「免疫細胞には、わかりやすく言えばがん細胞などの外敵を攻撃する際の『アクセル』と『ブレーキ』があります」と話すのは川崎医科大学臨床腫瘍外科学の山口佳之教授。「より積極的に攻撃を行うようにアクセルをかけるのがワクチン。がん細胞によって強くなったブレーキを緩めるのが抗体です」。2011年に米国で保険承認されたプロベンジはワクチン、エルボイは抗体にあたる。


 がんは人間自身の細胞の変異になるため、免疫細胞が攻撃をしようとしても上手くいかないことが多い。抗体であるエルボイは、この攻撃が上手くいかない原因を取り除き、免疫細胞ががん細胞へ攻撃を行えるようにするものだ。

免疫療法の分類
免疫療法にも種類がある

 一方「ワクチン」は感染予防などのために、毒性を弱めたりなくしたりした病原体を注入する方法で、特定の病原菌を抗原として認識する(=人体からみた外敵として認識する)免疫を作るもの。がんワクチンも、特定のがんを抗原として認識する面計を作る。しかし、がんができる部位ごとに違う免疫となるため、抗体も応じて変える必要がある。


 米国で承認されたプロベンジは、ワクチンの中でも「樹状細胞ワクチン」と呼ばれるもので、これは前立腺がんを抗原として認識する免疫を作り出す。ほかのがんに効果はない。そのため、現在は様々ながんを抗原として認識するように抗体を変えるワクチンの研究が進められている。その1つが、いま注目を浴びている「がんペプチドワクチン」だ。


 ペプチドはアミノ酸の集合体で、あらゆる細胞の表面に出るたんぱく質の一種だ。がん細胞の表面に出てくる「ペプチド」を利用して、様々ながんを抗原として認識できるように応用ができないか、研究がすすめられている。このペプチドワクチンの研究が進めばそれぞれのがんに適応したワクチンが作り出されるかもしれない。


治療を受けるには…


 米国で保険適用されたばかりの免疫療法だが、当然日本では保険適用されておらず、通常の手段で治療を受けることはできない。


 「現在、免疫療法による治療を受けようとするならば、3種類の方法があります。1つめは『製薬会社の治験へ参加』、2つめは『大学や各研究施設の研究目的での使用』、3つめは『民間ベースでの使用』になります」(前出の川崎医科大学・山口教授)


 治験は無料だが、製薬会社の審査を通る必要がある。研究目的での使用も、当然研究内容にそぐわない症例を持つ患者は受けることができないだろう。民間だと無保険のため1クールで最低でも100万円以上かかる。前出のプロベンジやエルボイは、米国では保険抜きで1000万円近くする。


 「あくまで私見ですが、2年ほどあれば保険承認されると思います」(山口氏)との話もあるので保険承認自体は、時間の問題というところだろうか。保険承認されれば費用の個人負担についてはかなり軽減ができる。近い将来、ほかの治療法と同じように治療に組み込まれることになるかもしれない。


現状とこれから


 免疫療法による最大の特徴は副作用の少なさにある。基本的に接種したワクチンが原因とはっきりしている副作用は、皮下注射した際に免疫細胞が働いて腫れるくらいのようだ。そのため「体への負担が高く連続して使用ができない抗がん剤を用いては病巣を小さくして、休んでガンが大きくなって」というサイクルを繰り返すよりも、高い延命効果が認められる場合がある。

がんワクチンは注射で行われる(写真はイメージです)
がんワクチンは注射で行われる(写真はイメージです)

 では、実際どの程度効果があるのだろうか? 一言に「治療の成果」と言ってもいろいろあるが、一般的にがん治療における成果の判断は「延命」「がんを小さくする」「QOL(Quality Of Life、生活の質)を保つ」という3つの観点から行われる。免疫治療は、米国では保険認証された際に一定の「延命」効果が認められた。


 国内においても「膵臓がん」における治療に関してデータ蓄積していたが、2012年2月にデータを開示した際には「効果0」という散々な結果だった。個々人で完治したという報告はあるものの、有為な結果を示したデータとしてはまだ残念ながら国内には存在しないと言える。


 今後、免疫療法が真に「第4の治療法」として確立していくためには、多様ながんに効果のあるペプチドの開発や効用のデータ蓄積など、さらなる研究を積み重ねていく必要があるだろう。

>>第2回は陽子線・重粒子線


RPAツール・AIHH

【関連カテゴリ】

その他