駅のホーム、ホテルのロビー、空港の案内…。身近なところでデジタルサイネージを見かけるようになって久しい。電子看板と言われたのは過去の話。今では、ネットワークのブロードバンド化や技術の進歩により「ほしい情報を、適切な場所で、リアルタイムに」提供することができるようになった。今後、デジタルサイネージが利用され、飛躍するためには何が必要なのかについて迫った。
デジタルサイネージとは、屋外・店頭・公共機関などに設置された、ネットワークに接続されたディスプレイやそれに表示させるコンテンツなどの総称だ。
デジタルサイネージが街で頻繁に見かけられるようになった背景にはまず、LCD(液晶モニター)やPDP(プラズマディスプレイ)などの登場によって、ディスプレイの画面が大型化して薄くなり、かつ値段が安くなったことが挙げられる。加えてADSLや光ファイバーなどの普及に伴うブロードバンドエリアの拡大によりネットワーク環境が整ったことが大きい。
環境の整備は、デジタルサイネージに様々な可能性を与えた。今日では広告や売り場などの値札、ホテルでの案内やはてには舞台演出までと、幅広い用途で使用されている。しかし、街でデジタルサイネージを目にする機会が最も多いのは、駅や電車内の「広告」だろう。JR山手線や京浜東北線の車内ドア上に設置された液晶モニターで動画配信をしている「トレインチャンネル」は、多くの方が目にしたことがあるはずだ。JR東日本に関する交通広告などを取り扱っている「JR東日本企画」では、トレインチャンネルの他にも、駅構内に設置するデジタルサイネージ「J・ADビジョン」を展開している。
JR東日本企画・交通メディア開発局長 山本孝氏 |
JR東日本企画・交通メディア開発局長 山本孝氏によると、同社は2002年を皮切りにデジタルサイネージの設備投資を強めてきたという。2009年に品川駅に設置された44面にも渡る66インチのディスプレイや、65インチのデジタルサイネージを渋谷駅、東京駅に設置。結果、クライアントにも好評を得て、売上も大きく飛躍した。
2011年3月11日の東日本大震災時でも、J・ADビジョンは震災で売上の落ち込みが如実に表れたものの、トレインチャンネルでは節電の影響をさほど受けなかった。そのため全体として広告売上の伸びは右肩上がりを維持することができたという。
トレインチャンネル(左)と品川駅のJ・ADビジョン(右) 写真提供:JR東日本企画 |
それでは、デジタルサイネージ全体の市場の伸びはどうなっているのだろうか。矢野経済研究所が出している市場の予測を見ると、JR東日本企画の売り上げと同じく、業界全体でも震災の影響があったが、その後徐々に持ち直している。
デジタルサイネージの市場規模 ※2010年度以降は予測値 (出典:矢野経済研究所 『デジタルサイネージ市場に関する調査結果 2010』) |
コンテンツの制作会社や、広告代理店、ディプレイの製造メーカーから、タッチパネルの1部品を作る中小メーカーまで、一言にデジタルサイネージ業界とくくっても多数の関連業種が参入する可能性がある。その期待感が、震災の影響を越えたのだろう。