東日本大震災 
ITは命をつなげられたか?
東北に築かれる最新地域医療ネットワークを追う
2012/3/19  3/3ページ

復興へとすすむ地域連携

 

 この「日常生活圏」「医療圏」に加え、さらに専門的な診断や高度な検査が必要な患者が利用する県の基幹病院や大学病院を中心とした「県域」レベルに、クラウド型情報センターを設置。このクラウドに疾患別に記録した診療情報データベースを置く。この大規模で強固なクラウド型情報センターに患者情報を蓄積することで、災害時でも患者の必要な情報を取り出すことが可能となる。

階層別地域医療情報連携の構造 出典:田中博氏資料
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 このように、宮城県では患者の治療や、それに関する情報の管理を3つの階層にわけて行い、それぞれを連携させる。これまで大病院に集中していたリソースを分散させることでそれぞれの階層で治療が済ませられるものは済ませるようにし、かつ震災時に強い理想的な地域医療の形成を目指していこうとしている。


 しかし、こうした地域医療ネットワークを宮城県全域に、一挙に地域情報連携を立ち上げるのは困難を極める。そこで第1段階として被災沿岸地域の地域医療体制の構築に着手。とりわけ被害の大きかった石巻や気仙沼といった地域の医療圏を充実させることを目標とする。次に第2段階としては宮城県全域の各医療圏へと情報連携体制を広げ、さらに、第3段階でクラウド型情報センターを形成することを長期的なスパンで計画している。


 田中氏はこのように組んだモデルをその後、他の県にも展開することを考えている。SS-MIX標準化ストレージやASP型電子カルテはそのための標準規格であり、別の県にもこのモデルを展開していくことも、将来的には視野に入れている。


 田中氏は現在、東北の各県へと説明に向かう。「私のように東北の地域以外で管轄する立場がある意味必要」とする通り、予算の管理・運用の役回りまで担う。それぞれの予算には様々なルールがあり、そのルールを加味してすすめていかなければならない。ただ今は「復興」と銘打たれ予算が組まれ安く、医療ITが大きく普及するチャンスでもある。


個人情報保護と組織連携


 このように東北に代表されるように進められている医療ITだが、解決すべき課題もある。例えば「個人情報保護」について、日本は厳しい法律が定められており、患者の同意やセキュリティレベルなど、十分な配慮が必要になってくる。「地域連携では医師は患者から同意書をもらったら、システム的に同意書の範囲の表示しかみられないようにするなどの工夫をしなければならない」と田中氏は語る。


 ほかにも問題がある。地域医療連携ネットワークは、ハードとして情報ネットワークを構築しただけでは稼働しない。つまり医療を担う医師をはじめとする医療関係者の間で、情報ネットワークの価値が理解され、構築へ積極的な関与が生まれてこなければ、ハードが構築されただけになってしまう。そのためには地域医療関係者の間の意識の共有も大事になってくる。


 今回の震災で被災地の医療関係者が痛感したネットワークインフラの断絶と、それが招いたコミュニケーション不全。今後、このような事態にならないためには、強固で利便性の高い医療ネットワークは必要不可欠だ。しかし地域医療は災害対策だけではない。高齢化が世界でも特に進んでいる日本だからこそ、ITを用いて地域医療を活用することで、今後の社会構造の変化に対応させていく必要がある。いま、東北で構築されている最新の地域医療ネットワークは日本の未来を担う試金石なのかもしれない。

(山下雄太郎)

注釈

*1:EHR(Electronic Health Record:電子健康記録)
個人の医療情報を、地域単位の医療機関で共有することで、生涯に渡った医療サービスを提供するための情報管理基盤。世界各国でも医療費削減や医療技術の上昇の手段として、医療改革の柱の1つに据えられている。

*2:SS-MIX
Standardized Structured Medical Information eXchangeの略。米国発祥の医療情報交換に関する標準化規格HL7に基づいて、厚生労働省が平成18年度よりすすめている。

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