はやぶさ60億キロの軌跡
奇跡を支えた通信機能に迫る
2011/11/14  3/3ページ

携帯電話にも転用!? 宇宙技術との意外な関係


 はやぶさの通信機能が帰還に関して活躍をした一方で、宇宙開発事業が周波数帯のフロントランナーであることは、あまり知られていない。現在は携帯電話やスマートフォンの通信で使われている第3、4世代の移動通信では0.39~1.55GHz周辺帯域の「L-band」や、1.5~3.9GHz周辺帯域の「S-band」が割り当てられている。しかしこれらの帯域を利用する技術は、もともとは宇宙事業における通信に使うため、開発されたものであった。

レーダーの慣習によるアメリカ式分類と日本における主な用途

 しかし、はやぶさの開発時期とかぶるように、携帯電話や地上デジタル放送など地上における電波需要は爆発的に伸びてきている。そのため、はやぶさプロジェクト側で総務省に提出した「S-band」の利用申請は、結局許可が下りなかったようだ。こうしてはやぶさには、S-bandよりもさらに高い周波数の6.2~10.9GHz帯域の「X-band」が割り当てられた。


 無線通信における周波数は、高ければ高いほど情報量が多くなる利点がある。一方で電波が建物などの障害に弱く、技術的に未熟なため発信側も多くの電力も使ってしまう難点もある。さらに降雨減衰といい、雨の水滴や雨雲などによって電波が拡散・減衰してしまう性質があり、大雨の日には通信が不可能になるなど不利な点も多い。


 現在、地上における無線による通信量は増大する一方であり、時代とともに通信量が増大していけば、将来的にはさらに多くの周波数帯を必要とすることになるだろう。そのため現在、宇宙事業における通信で利用している周波数帯利用であっても、民間に召しあげられてしまう可能性は高い。将来の事態に備えて、アメリカ航空宇宙局(NASA)や欧州宇宙機構(ESA)など世界中の宇宙開発事業は、こぞってさらに高い周波数帯であるKa-band(33~35GHz)の開発を進めている。


 もちろん現在では需要が存在しないが、こういった技術開発には何年もかかるのが通例なため、予め技術投資をして洗練化を図る必要がある。しかし膨大な投資が必要なためか、日本には受信設備はなく、今後造る計画もない。当面は、ESAやNASAの施設を借りることになっている。日本のプロジェクトは、まず衛星などの送信側にKa-bandを盛り込むことで、ニーズを訴えて受信設備投資への理解を計ろうとしている…。


 このように影の立役者である「通信機能」は、日本では遅れがち、開発が後回しになりがちな側面もある。はやぶさはそれを、プロジェクト関係者の熱意や技術力、発想力とわずかな幸運でどうにかカバーし、偉業を成し遂げることができた。しかし、今後も必ず遅れをそれだけでカバーできるわけではない。日本が宇宙事業においてもイニシアティブを発揮するためには、幅広く漏れのない技術開発が必要になってくるかもしれない。

(井上宇紀)

注釈

*ビーコン
無線による標識。電磁波を発生させ、機器でそれらを受信することにより、位置を知らせる技術のこと。

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【キーワード解説】周波数帯

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