はやぶさ60億キロの軌跡
奇跡を支えた通信機能に迫る
2011/11/14  2/3ページ

3億キロの彼方で


 超長距離を走り抜いた超高効率のイオンエンジン、2万度にも達する再突入の高熱に耐えるカプセルの開発、世界初の快挙となるサンプルリターンなど、はやぶさは煌めくような功績が多々ある。しかもプログラムをあらかじめ組み込んでおき、一方的にたどり着くだけではない。はやぶさには「地球に帰る」という非常に困難な工程があった。その困難な運用を7年に渡り支えていたのが「通信機能」だ。


 はやぶさの旅路は、周知のように決して平坦な道のりではなかった。特に復路に関しては耐用限界に近付いた各部品が故障を起こし、トラブルに見舞われた。「探査機は航行中に一切の修理ができず、性能は縮小していく一方」(國中氏)であり、想定内の故障であれば対応できるが、想定外の故障であれば現在ある機能を工夫してどう代用するかにかかっていた。


はやぶさが撮影した小惑星イトカワ。(JAXAデジタルアーカイブス提供)
はやぶさが撮影した小惑星イトカワ
(JAXAデジタルアーカイブス提供)

 小惑星「イトカワ」にたどり着いたはやぶさは、地球から3億キロほど離れた場所にいた。「往復伝搬遅延」と言い、はやぶさと交信するためには30~40分ほどの時間が必要とされた。そのため、イトカワへの離着陸など秒単位の制御が必要な場合は、自立プログラムで対処。しかし残念ながら、この自立プログラムが100%の働きをせず、着陸の際にはやぶさがイトカワへ衝突したことが遠因となり、復路における故障、通信の途絶という事態に陥る。


 イトカワからの帰り道、2005年12月9日午後1時10分。姿勢制御系の故障から通信が一旦途絶え、その後も非常に微弱な電波でのみしか交信ができない状態が続いていた。電波は「搬送波」を変調させることで「変調波」に変え、受け取った側はこれをデコードすることで情報を取り出すことができる。しかし、はやぶさから電波が来ていることは分かっていても、そこに乗っている変調波を解読するには、あまりにも微弱過ぎたため、情報を読み取ることはできなかった。


 そこで、変調を必要としない、搬送波の入り切りのみで情報のやり取りをする方法が用いられた。これが、いわゆる「1bit通信」だ。モールス信号の様に、電波を入れたり切ったりすることだけで、情報をやり取りする。もちろん情報量はロウゲインアンテナよりもさらに少なくなるため、一旦途絶したはやぶさの状態を探るだけで2~3週間ほどかかっているが、これが持ち直すきっかけとなった。


 この通信方法は、先述の通りはやぶさよりも前に打ち上げられた火星探査機「のぞみ」で使わざるを得ない状況が発生し、培われた技術だ。はやぶさでも「もしものときのため」程度で組み込まれていたが、このトラブルからの復帰に1bit通信が大活躍したため、それ以降の宇宙航空分野のプロジェクト「イカロス」などには標準装備として組み込まれることになった。


はやぶさが燃え尽きる横で…


 様々な困難な過程を乗り越え、はやぶさが地球への帰還を果たした際、再突入のカプセルを除いて、すべての部品は燃え尽きている。そんな燃え尽きながら流星のように光を放つはやぶさの横で、別の戦いが繰り広げられていた。「再突入カプセル」の回収作業だ。


 今回取材でお話を伺った國中均氏はカプセル回収班として、はやぶさ帰還時にはすでに現地入りをしていた。「現地でカプセルを探す役割だったのでカプセル見つかるのかなと。これだけいろいろなトラブルがあったのでうまくいくのか、不安だった」と話す。

発見された再突入カプセル(JAXAデジタルアーカイブス提供)
発見された再突入カプセル(JAXAデジタルアーカイブス提供)

 カプセルは光を放ち、オーストラリア南部のウーメラ砂漠に落下したが、その後、ビーコンを発信し、その電波を元にカプセルを回収する、という段取りになっていた。ところが、このビーコン電波が出ないと、当然はっきりとした場所がわからないため、砂漠中を歩き回って探さないといけなくなる。その場合、回収班にけが人が発生する恐れもあり、時間もかかる。そして地球上に落下してから回収までの時間がかかれば、カプセル内部の科学的な価値までも低下してしまう可能性が高い。


 國中氏は「人員を100キロ、200キロ先まで手分けして、ビーコンが発生するのを待っていたのですが、光ってからビーコンが出るまでの3分間がほんとうに苦しかった」と当時の心境を回想している。


 ビーコンは、きっちり発信され、事前に予想した落下予想楕円のど真ん中に落ちてきていたという。カプセルは無事回収された。有終の美を飾るために活躍したビーコン。2万度にも達する再突入時の高温にも耐え、サンプルの科学的な価値を守るという重要な機能を発揮した「通信機能」にも賞賛の言葉を贈りたい。

>>宇宙におけるこれからの通信の開発は…?

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