変わる地方自治体のIT
クラウド、Facebook…生き残りを懸けたIT政策
2011/10/17  3/3ページ

「クラウドは儲かりにくい」


 「業務でシステムを使っていると、『ここをこうしたほうがもっと楽になる』という細かい要望や修正点が必ず出てきます。長崎県庁では、それまで1ヶ月かけて配布と回収を行っていた人間ドックの登録をシステム化しました。非常に便利になりましたが、同じようにシステム化したい業務が増えてくるのです。これらの機能を付加して提供するのがクラウドの行きつく先だと思います」と語る島村氏。


 しかし、システムをクラウドで提供するベンダーにとって、こうした修正を行ったからといって、追加費用はもらえない。「ですから、『機能は拡張しない代わりに安く提供する』ということはできても、それ以上のサービスをクラウドで提供するのは、仕組みとして儲かりにくい。ですから、コモディティ化したものをクラウドで提供して収益を上げるとなると、salesforce.comのような浅く広く、という数で攻めるものにならざるを得ないのです」(島村氏)。


 クラウドサービスの機能を上げながら運営していくためには、クラウドサービスの提供者がシステムを使うユーザでなくては難しいという島村氏。総務省の進める自治体クラウドについては「ある程度のところで機能改善が止まってしまうのではないか」と危惧している。


五島列島で描く近未来社会「EV&ITSプロジェクト」


 庁内業務のIT調達・利用の改善に取り組んでいる長崎県だが、地域活性化にもITを活用している。同県の西に浮かぶ五島列島は、世界遺産候補となっているキリスト教会群が島内に点在している。


 この観光資源を活用し、島内で進む人口減少に歯止めをかけるため、長崎県では2009年3月から「EV&ITS」(エビッツ)というプロジェクトを進めている。島内を巡る際に使用するレンタカーを全てEV(電気自動車)に切り替え、ITS(高度道路交通システム)を島内5カ所に設置した。


 EVレンタカーで使用するカーナビにも工夫を加えている。現在実装されているのは、ITSから地元の観光情報や船の出港時間などを配信するサービスだ。現在は船の出航時間は事前に決まっているものを表示している実験段階だが、今後はITSからカーナビへ「出航時間の変更」や「おすすめの観光ルート」などをリアルタイムに更新した情報を配信できるよう目指している。

EV&ITSプロジェクトで進める五島ECOアイランド構想 出典:長崎県(クリックすると拡大します)
EV&ITSプロジェクトで進める五島ECOアイランド構想 出典:長崎県(クリックすると拡大します)

 このEV&ITSプロジェクトは、単なるEVの使用にとどまらない。ビルや家庭の電気の余っているところから電力需給を調節し、EV用の充電器など必要なところに配分する「スマート社会」も実現しようとしている。現在はビルや家庭における通信の仕組みがバラバラなので、既存の標準はそのままに、データを統合化できるよう、メタ標準化を目指している。


 EV&ITSプロジェクト担当の鈴木高宏政策監は「先進技術を取り込んだ社会がどのようなものか、五島列島を次世代の社会基盤の見本にして、全国に通用する地域の活性化モデルにしたい」と意気込む。


 武雄市のFacebook移行、総務省が後押しする自治体クラウド、そして長崎県が独自に開発、提供を始めた自治体クラウド。「国が後押ししようと、自治体が自主的に取り組もうと、その手段は関係ありません。とにかくコスト削減が第1の目標」(総務省・山形氏)という言葉に集約される。加えて2011年3月11日に発生した東日本大震災は、津波による書類の喪失など、データ消失のリスクも自治体に改めて認識させた。


 人口減少、財政難、人材不足。これらを解決して生き残るべく、コスト削減や地域活性化を本気で目指す自治体では、もはやこれまでの「お役所仕事」は見受けられなかった。積極的な姿勢を見せる自治体の「次」の取り組みは何か、目が離せない。

(中西 啓)

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