変わる地方自治体のIT
クラウド、Facebook…生き残りを懸けたIT政策
2011/10/17  2/3ページ
発注方法自体を見直した長崎県
発注方法自体を見直した長崎県

「自分たちで行動する」長崎県の庁内システム


 総務省の提唱する「自治体クラウド」のコスト削減は、システムを複数の自治体が「共同」利用することを前提にした効果を見込んでいる。


 対して、共同化ありきではなく、IT発注の方法を根本から見直してコスト削減に取り組んだのが長崎県だ。同県総務部政策監の島村秀世氏は2001年に着任以来、長崎県庁のシステム調達を根本から変えてきた。島村氏は元々勤務していた企業からの出向という形で長崎県の情報システムに関わったが、現在は社を離れている。ベンダーが「おいしい受注」をできないような発注方法を採用したからだ。


 それまでのシステム発注では曖昧な仕様書を県側が提出し、ベンダーに「丸投げ」していたが、島村氏はこれをやめて緻密な仕様書を作成、オープンソースのソフトウェアを使用する方式に変えた。「ながさきITモデル」と名付けられたこの仕組み、「分かりやすいメリットは、大型汎用機のダウンサイジングを、大手ベンダーさんではなく、地場のIT企業でもできることですね」と島村氏は語る。


 「ながさきITモデル」での仕様書の作成手順は、まず職員が画面イメージのラフスケッチを描くところから始まる。この段階で業務に携わる他の職員に意見を聞くなどして「1人よがり」をなくしていく。こうして出来上がったものを、WEBデザイナーに依頼して、仕様書を作り上げていく。

「実際に見た方が早いでしょう」と出された、
仕様書の一部。画面やデータの場所などが詳細に書かれている
「実際に見た方が早いでしょう」と出された、
仕様書の一部。画面やデータの場所などが詳細に書かれている

 次は画面イメージをもとに必要なデータベースを設計する。そして、画面イメージとデータベースの設計を合わせて仕様書を作成する。


 こうして出来上がった仕様書は、詳細に設計が書き込まれているので、受注側の企業にリスクマージン分の費用を組み込む余地はほとんどない。また、オープンソースを採用することで、大手ベンダーと比べて体力のない地元のIT企業でも参入できる素地を作った。「『ながさきITモデル』は、システム費用は安上がりになりますし、地元のIT企業も参入できる。いいことだらけです」と島村氏は語る。


汗をかかなければコストは下がらない


 ただ、「ながさきITモデル」の導入は、どんな部署でも簡単にできる、というものでもないようだ。「『調達さえすればいい』という発想に慣れている職員にとっては、仕事が増えるだけでしかありません。嫌がる人も出てきます」(島村氏)という。


 島村氏は「細かく分割して発注する分、問合せ先をしっかり管理することも必要になります。また、コストメリットは明らかですが、部署の中で『1人でやれ』と言われても、その人を支える上司なり組織なりがいないと踏ん張りきれず、メーカー側に発注を丸投げしてしまう」という点も指摘した。


 それなりに汗を流し、汗を流す人を支える人も必要である、ということだ。そのため、島村氏の取り組みを聞こうと他県の職員が来たものの、ほとんどが説明を聞くだけで終わってしまったという。


 しかし、徳島県は島村氏の話を聞いた後、2週間の研修を受けてノウハウを身に付けた。この後、同県は地場のIT企業と組んでCMS(コンテンツマネジメントシステム)「Joruri」を開発する。「全部が私たちと同じやり方ではないにせよ、徳島県が『Joruri』を完成させたこと自体、(発注を丸投げしないという)発想の表れだと思います」(島村氏)。


 実際、長崎県では「ながさきITモデル」によって、2013年度には大型汎用機の撤去を見込んでいる。


自治体がサービス提供する「自治体クラウド」

「提供者が利用者でないとクラウドサービスは厳しい」と島村氏は指摘する
「提供者が利用者でないとクラウドサービスは厳しい」と島村氏は指摘する

 こうしてオープンソースで開発した調達方法を他の自治体にも広めようと、島村氏は全国各地の自治体を回って説明をした。しかし、話を聞いた自治体の反応はあまり芳しくなかったという。「パッケージではなくオープンソースを利用することによる不安感が拭えなかったのでしょう」(島村氏)。


 この経験から生み出されたのが、2009年から長崎県が提供を始めた長崎独自の「自治体クラウド」システムだ。システムを利用する側である自治体(長崎県)そのものが、開発者としてシステムを提供する。利用する自治体が支払う費用は、住民1人当たり年間10円の設定である。


 単なるオープンソースを活用したITの調達では効果がなかったために始めた自治体クラウド。だが、島村氏はサービスを始めた理由を「クラウドサービスは、『提供者側』が『利用者側』にならなければ損をしてしまうから」とも強調する。

>>自治体のIT活用の未来像は?

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