スパコン活用の展望を探る
「京」世界一の先は
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2011/9/20  3/3ページ

HPCIで「京」と繋がる


 本格稼動が目前に迫った「京」だが、もう一つの課題点『活用のためのインフラ構想の不十分さ』は解消されているのだろうか。渡辺氏は「プロジェクトのスタート時は、世界一になるのが大きな目標、というスタンスだったんです。それが、使う側―大学のセンターにあるスパコンと連携して、有機的なものにしようということになったんです」と、開発姿勢の変化を語った。


 その“有機的なつながり”がHPCI(革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ)だ。


 事業仕分けの指摘をきっかけに、大学や研究機関が有する国内スパコンも含めた日本全体のスパコンを活用するためのインフラ網の中に「京」を位置づけることが求められるようになった。このため、「京」と国内のスパコンを垂直的に連携させた上、「京」以外のスパコンを水平的に連携させるネットワークを作り、国内の様々な場所から「京」を利用したり、ネットワーク上の複数のスパコンを協調的に利用したりできる環境を整備しようと、準備が進められている。例えば、計算量が膨大で大学にあるスパコンでは計算ができない、というような時に、比較的容易な手続きで「京」を利用できるようになるのだ。


 HPCIの構築準備は、「HPCI準備段階コンソーシアム」という組織が行っている。オールジャパンの計算科学技術体制構築やインフラを通した人材育成など、課題の検討がすでに始まっている。

HPCIのイメージ図。提供:HPCI準備段階コンソーシアム(クリックすると拡大します)
HPCIのイメージ図。提供:HPCI準備段階コンソーシアム
(クリックすると拡大します)

 HPCI準備段階コンソーシアムによると、当面は、「京」と他のスパコンの圧倒的な能力差を考慮し、「京」による大規模計算が主になり、その他の各スパコンは「京」へのゲートウェイとして機能することになるそうだ。しかし、次第にそれぞれのスパコンの特性に応じて仕事を分担させることが出来るようになり、最終的には「京」と他のスパコンを同列にとらえ、連携計算が出来るようにする予定だという。渡辺氏ら開発側も、利用者に合わせた環境整備や、運用時のサポートを、アプリケーションでの補助などを中心に行っていくそうだ。


 このネットワークが完成したら、日本の研究風景は大きく変わるだろう。事業仕分けで受けた指摘がきっかけで、「京」がただ計算の速い器ではなく、人材を育てるための場として広く機能するようになるなら、「国力を落とす気か」と批判を浴びることになった仕分け人たちにも、結果的に大きな手柄があったことになる。


スピード世界一の先へ


 日本の科学技術振興の中核となるべく、完成を目前にしている「京」。素人考えで、今どんな分野で役立ってほしいかをイメージしてみると、やはり真っ先に思い浮かんだのは、東日本大震災で変わり果てた被災地の姿だった。「京」を使って、「いつまでにどの地域をどうすれば、最短で被災地に人が戻れるのか」という総合的な“復興シミュレーション”をすることはできないだろうか。


 渡辺氏の答えは「なかなか難しいと思います」とのことだった。「計算をさせますから、様々なものを『数値化する』という作業をしなければなりません。経済シミュレーションなどはありますが、全体的な復興シミュレーション、というのは…」。だが、「放射能の分布や、橋の建造、ビルの建設など、部分的に使うことになるはずです。原子炉の耐震性シミュレーションなどにも活用できるでしょう」という言葉ももらえた。


 本格稼動のあかつきには、復興にも大いに役立ってくれるだろう。

ISC’11の「No.1」認定書。輝かしいが、“通過点”であってほしい。提供:理研
ISC’11の「No.1」認定書。輝かしいが、“通過点”であってほしい。
提供:理研

 「京」は確かにスピードで世界一になった。しかしそこで満足するのではなく、“世界一活用されているスパコン”として、これからの日本を引っ張っていって欲しい。

(井上恭子)

注釈

*1:ベンチマーク・プログラム
コンピュータシステムのハードウェアやソフトウェアの性能を測定するための特別なプログラム。

*2:FLOPS(FLoating point number Operations Per Second)
1秒間に何回浮動小数点演算ができるか、というコンピュータの処理速度単位。

*3:浮動小数点演算数
コンピュータの数値演算方式のひとつ。桁数の大きな数値を扱うために使われ、通常の演算に比べて処理に時間がかかるため、ベンチマークに用いられることが多い。

*4:実行効率
理論上のピーク性能に対して、実際の運用状態で発揮できる性能がどれほどかを表す数字。

*5:ベクトル型
複数組のデータに対し1つの命令で同一演算を行うベクトル型プロセッサと呼ばれる専用のCPUを搭載したタイプのスパコン。

*6:スカラ型
ワークステーションなどでも利用されている汎用のCPUを搭載したタイプのスパコン。CPU単体の処理性能は、ベクトル型のほうが高いが、スカラ型は汎用CPUを大規模な並列接続、分散処理を行うことで、ベクトル型に匹敵する処理速度が実現できる。CPUが汎用的であるため、スカラ型の方がコストパフォーマンスは良いとされる。世界のスパコンの主流はこちらである。

*7:数値予報
物理学の方程式により、風や気温などの時間変化をコンピュータで計算して将来の大気の状態を予測する方法。

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