デジタル・ヒストリー:1979年7月1日 初代ウォークマン発売

デジタル・ヒストリー

1979年7月1日 初代ウォークマン発売

2014/7/14

 日本の名経営者として名を馳せた井深大氏と盛田昭夫氏。2人が設立したソニーは今や世界的に有名な電機メーカー。そのソニーが起こしたライフスタイルの革命の一つが、携帯音楽プレーヤー ウォークマン®だ。

ウォークマン年表

ウォークマン誕生


 1970年代終わりに音楽記録媒体として普及していたカセットテープ。このカセットテープを外出しても聞くことができるよう、ソニーは1978年5月に肩掛け型で教科書サイズのテープレコーダー「TC-D5」を発売する。


 この「TC-D5」を愛用していたのが創業者の1人、井深大氏だ。井深氏が海外出張の際、「TC-D5」を使って飛行機の中でステレオ音楽を聴いていたところ、重さや大きさといった不便さを痛感。「小型テープレコーダーの『プレスマン』に、再生だけでいいからステレオ回路を入れたものを作ってほしい」と当時の副社長に持ちかけたところ、早速社内の技術者が試作に取り掛かった。ソニーの技術者はすでに販売されていたモノラルタイプの小型テープレコーダー「プレスマン」から録音機能をはずし、ステレオ再生ができるようにした。これがウォークマン誕生のきっかけだ。


初代ウォークマン「TPS-L2」(提供:ソニー)
初代ウォークマン「TPS-L2」(提供:ソニー)

 井深氏がこの試作品を盛田氏に持ち込んだところ、盛田氏も意気投合。商品化を進めるものの「テープレコーダー(録音機)は売れるが、テーププレーヤー(再生専用機)は売れない」と社内では否定的・悲観的な意見がほとんどであった。しかし盛田氏はその反対を押し切り、1979年7月1日、初代ウォークマン「TPS-L2」の発売を断行する。


 しかし発売して2ヶ月間は鳴かず飛ばずだった。そこで、影響力のある芸能人にウォークマンを使ってもらい、雑誌に取り挙げてもらった。またウォークマンを若者に利用してもらい、その姿をまた他の人に見てもらう――こうした地道な「市場啓発」を繰り返し行い、認知度を高め、購買者を次第に増やしていった。結果、「売れるはずはない」といった社内の雰囲気は一変する。


 日本で人気に火が付いたウォークマンだが、盛田氏は早くから海外を考えていた。ただ「ウォークマン」は和製英語で、英語圏では全く意味が伝わらない言葉。そのため、欧米の現地法人では販売しやすいように独自の商品名をつけていた。例えば英国では「ストウアウェイ(密航者)」とするといった具合だ。しかし盛田氏はウォークマンのネーミングが海外でも浸透し始めていたことを受け、「自分達が最初につけた名前で、世界に売り込もう」と判断。「ウォークマン」を統一の商標として、世界中で着実に浸透させていく。


「音質」を重視 広告展開も奏功


 1982年、国内では2号機「WM-2」が発売される。斬新なボタンレイアウトを採用し、本体側にあるのが常識だった磁気ヘッドを蓋側に移動。さらに外付けのバッテリケースにより、約69時間の再生を実現。81年2月の発売から約2年で250万台も販売するヒット商品となった。


15周年モデルとなる「WM-EX1」(提供:ソニー)
15周年モデルとなる「WM-EX1」
(提供:ソニー)

 ウォークマンの設計者が力を入れたのは音質だ。よい音で音楽を楽しみつつ、周りの騒音が気にならないように改良を重ねた。WM-D6C(1984年発売)で初めてノイズリダクション(音声信号に含まれるノイズを軽減する信号処理)を採用するなど音質へのこだわりを追求する。また、広告展開にも力を入れた。1987年には猿が耳にイヤホンをして、手にウォークマンを握っている姿のCMは、世間の注目を集めた。


 1994年には15周年モデルとなる「WM-EX1」が発売。「15の便利な機能」を売りに、最大で36時間の連続再生、最大25倍速で巻き戻し、早送りを行うことができる機能が加わるなど、さらなる進化を遂げていく。


記録媒体を変えて展開 カセット型は販売終了へ


初代MDウォークマン「MZ-1」(提供:ソニー)
初代MDウォークマン「MZ-1」(提供:ソニー)

 しかしカセットテープは音質の劣化や頭出しに時間がかかるといった問題点がある。そのため記録媒体もデジタル録音・再生が可能なものが重宝される。結果、カセットテープからCD、MDへと記録媒体の移行が加速。ウォークマンも「CDウォークマン」(初代は「ディスクマン」として1984年に「D-50」が発売)や、「MDウォークマン」(1992年に初代録音再生モデル「MZ-1」、初代再生専用モデル「MZ-2P」が発売)として展開。カセット型ウォークマンもその後も進化を続け、FM・AMチューナーの内蔵、ワイヤレスリモコンの採用、液晶ディスプレイの搭載などの新機能が次々と加えられていく。


カセット型ウォークマンの最後のモデルとなった2002年発売の「WM-FX202」(提供:ソニー)
カセット型ウォークマンの最後のモデルとなった2002年発売の「WM-FX202」
(提供:ソニー)

 しかし音源のデジタル化の進展、CD・MDなど新しいメディアの大幅なシェア拡大に反比例して、カセットテープの需要は低迷していく。2001年以降は、デジタルオーディオプレーヤーの世界的な普及が進み、2010年10月22日、カセット型ウォークマンの日本国内での販売終了が発表され、31年間の歴史に幕を閉じる。カセット型のウォークマンの累計販売台数は全世界で2億2000万台だった。


 現在、「ウォークマン」の名が付く最新の機種はポータブルオーディオプレーヤー「ウォークマン Sシリーズ」「ウォークマン ZX1」など(2014年6月時点)だ。記録媒体が変化しても、「好きな音楽をどこでも持ち歩く」製品コンセプトは変わっていない。発売直後に、ヘッドホンステレオの一般名詞とさえ認識されたウォークマン®の影響力はこれからも色あせることはないはずだ。日本の家電の歴史に大きなインパクトを与えた「カセット型ウォークマン」は今後も語り継がれるだろう。

(山下雄太郎)