寄稿
電子書籍の近未来
三田誠広 作家・武蔵野大学教授
2012/11/29  2/2ページ

【第4回】デジタル・ファーストの問題点


RPAツール・AIHH

ネットに置く文章と紙の本による出版の差

 問題はプロの作家が出版社(またはネット業者)の依頼で、とりあえずネット上に文章を掲示する場合だ。わたしがいま書いている文章は、原稿料をいただくことになっているので問題はないのだが、たとえば単行本一冊ぶんの原稿を書いて、それで電子書籍として販売する場合を考えてみよう。紙の本でも電子書籍でも、中身の文字情報は同じなのだが、そこから対価を得るということになると、大きな問題が生じる。


 紙の本の場合は、全国の本屋さんに置いてもらい、できれば大きな本屋さんには平積みで置いてもらうということが前提なので、ハードカバーの単行本なら5千部、ソフトカバーや文庫なら1万部以上の初版を刷ることになる。この初版印税は(振り込みなどのタイムラグはあるにしても)ただちに著作者に作家に支払われる。もしも売れなかったら出版社の損失になるので、出版社はギャンブルをすることになるが、作家は確実に初版部数の印税は得られることになる。


 ところが電子書籍の場合は、初版という概念は存在しない。文字情報を含んだファイルをサーバーに入れてアクセスがあれば公衆送信が可能な状態にするというだけのことだ。ここで1冊売れればいくら、という契約だけだと、1冊も売れなければ、作家の収入はゼロということになってしまう。紙の本の場合は、本屋さんの店頭に平積みになっていること自体が宣伝になるのに対し、ネット上に置くだけでは、そんな電子書籍が売られているということに、誰も気づかない場合もある。これではプロの作家はやっていけない。紙の本の初版に相当するような契約金を定めて、たとえば1万部程度の印税は、たとえ売れなくても出版社が保証するというくらいのシステムを設定する必要があるだろう。


 実際のところは、ケータイ小説に代表されるような、素人の書いた無料のコンテンツか、または新人作家を売り出すための準備段階で、デジタル・ファーストの小説をネット上に置いて反応を確かめてみる、といった使い方をされるのではないかと思われる。自費出版のかわりにネット上に作品を置くということも考えられるだろう。いずれにしても、対価を求めない半ば素人の作品が並ぶだけで、そこからはプロの作家は育たないと見ていいだろう。

現在ネット上には多数の小説投稿サイトが存在する
現在ネット上には多数の小説投稿サイトが存在する

 デジタル・ファーストの利点は、ワープロの原稿があれば、すぐに電子書籍として発売できるということだ。すでにマスコミなどで話題になっているテーマについての本や、いま売れているタレントのおしゃべりをそのまま本にする、といったコンテンツなら、確実に売れるだろうし、結果的には書き手に対価を払うことも可能だ。こういうキワモノ的なコンテンツは、紙の本ができる頃にはもはや話題としては古いものになっていて、大量に売れ残ることも考えられる。紙の原料となる資源の無駄づかいを防ぐために、つまらない本は紙ではなくデジタルだけにとどめておくということは、デジタル・ファーストの積極的な効用だといえるかもしれない。

>>デジタル時代の文学とは? 最終回を読む

【関連カテゴリ】

トレンドその他