寄稿
電子書籍の近未来
三田誠広 作家・武蔵野大学教授
2012/9/24  2/2ページ

【第2回】デジタル画像の問題点


RPAツール・AIHH

書籍の画像化の問題とは

 ただしここには問題が立ちはだかっている。本を出版する場合、出版社は作家がもっている著作権のうちの“複製権”を期間限定で委託してもらって、出版権というものを設定するわけだが、ここでいう「複製」というのは、印刷によって本を作るということに限定されている。画像を配信するのは“公衆送信権”という別の権利なのだが、ネットなどといったものが想像もできなかった時代の契約書に、この権利が書き込まれることはなかった。


 そこで電子書籍を配信するためには、新たな契約が必要となる。この契約をとりまとめるコストが大変で、しかも作家が行方不明になっている場合が少なくない。国会図書館の場合は、特例で画像化する作業は“権利制限”になっていて許諾は必要ないのだが、配信する場合は許諾が必要となる。


 アーカイブされた画像を低価格で配信するためには、この許諾のコストを下げる必要がある。わたしは以前から「文芸版のJASRAC(日本音楽著作権協会)」のような組織の必要性をさまざまな局面で主張してきた。JASRACの場合はテレビやラジオでの使用からカラオケまで、さまざまな場所から使用料を徴収できるのに対し、文芸での著作権使用は大きな利益を生むものではないので、組織の設立するコストが負担になってしまう。それでも、大企業のコピー機の使用から料金をとっている日本複製権センターを中心に、日本文藝家協会などの権利者団体が協力して、大きな組織を作ろうという機運は盛り上がっている。

参考 JASRACの仕組み(出典:JASRAC のHPを参考に作成
参考 JASRACの仕組み(出典:JASRACのHPを参考に作成)

RPAツール・AIHH

ネット上に流出する可能性

 ページをデジカメで撮れば画像になると最初に書いたのだが、最近は専用のスキャナーが発達して、本1冊を100円以下で画像化(PDFファイル)してくれる業者が現れた。この装置はコピー機のように、ペーパーを送り込む装置で高速スキャニングを可能にしているので、製本された本の背表紙を切断してペーパー状にする必要がある。1冊の本が消滅してPDFファイルが残る。個人が自分の蔵書を複製するのは“権利制限”なので問題はないように見えるのだが、これは本の所有者が自分で複製する場合に限られる。


 スキャナーを保有する業者が利用者から料金をとって本の複製を作る(画像化)ことには問題がある。他人の著作権を無断で使用して利益をあげるという行為は、著作権の侵害になるからだ。もっともこれまでも、コンビニのコピー機で本の一部をコピーするという行為は黙認されていた。本を丸ごとコピー機でコピーする人はいないし、コピー機の画像は劣化しているので、著作者が損失を受ける可能性は少ない。


 しかし本1冊ぶんのPDFファイルができると、ネット上に流出する可能性があり(現に流出は起こっている)、作家に損失が生じるおそれが出てきた。この問題も複製権センターのような組織が安価で許諾が出せるようなシステムが確立されれば、合法的な利用が可能になるのではないかとわたしは考えている。次回はテキスト文書の問題点について説明したい。

>>テキスト文書の問題点とは? 第3回を読む

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