寄稿 よくわかる品質コストマネージメント 伊藤嘉博 早稲田大学教授
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2011/5/16  2/2ページ

【第3回】隠れた品質コストを「見える化」する

 それでも、欧米の企業のなかには、この種の機会損失を見積もって品質コストレポートに計上しているところも少なくない。ただし、通常の品質コストの4つのカテゴリー(外部失敗コスト、内部失敗コスト、評価コスト、予防コスト)のなかにこれを組み入れるのではなく、いわば5番目の品質コストとして位置づけているのが欧米企業における品質コストレポートの特徴である(表参照)。ひとつには機会損失と現金支出原価を区別したいということもあるが、この種の損失はときとして他の品質コストの金額をはるかに越えるほどの多額の発生額が見込まれる。そのため、他の品質コストと分離することでその影響の大きさを組織構成員に明確に伝えたいという経営者の思惑も働いているようだ。

表、米国フォートン社の品質コストレポート(出典:Horngren, T.,G. Fosterand S.M. Dater, Cost Accounting: A Managerial Emphasis, Ninth Edition, Prentice-Hall, 1996, p.685. 一部省略・修正のうえ掲載。)
表、米国フォートン社の品質コストレポート(出典:Horngren, T.,G. Fosterand S.M. Dater, Cost Accounting: A Managerial Emphasis, Ninth Edition, Prentice-Hall, 1996, p.685. 一部省略・修正のうえ掲載。)

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見えないものは管理できない

 他方、わが国の企業では、正確な測定が望めない以上、この種の損失を見積ることは無意味と考えている経営者も多いように見受けられる。ただし、ひとたび製品の出荷後に品質問題が発生したなら、金額の多寡はどうあれ、機会損失は間違いなく存在している。そうであれば、その事実を経営者はもとより、全ての組織構成員にあまねく知らしめ、適切な対応を彼らに促すためにも、機会損失の測定にチャレンジすることには大きな意味があると考えられる。


 ドラッカー(P.F.Drucker)も言うように、「測定できないものは管理できない(You can't manage what you can't measure)」のだから、たとえ正確には掴めずとも、ぼやっとした輪郭だけでも見えてさえいれば、リスクを回避する道は開ける。見えないものを見えないまま放置しておくことは、いわばマネジメントそのものを放棄したことに等しい。欧米企業が機会損失の測定にこだわる所以は、案外そんなところにあるのかもしれない。


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測定の困難さはマネジメントの障害にはならない

 ただし、見える化そのものは決して機会損失のマネジメントの前提条件ではない。というのも、それらは見えている部分が小さくなれば自然に減少していくと予想されるからである。実は、見えている部分も見えない部分も根は同じで、要は品質管理を徹底すれば予防することは可能である。


 その意味では、機会損失の見える化は組織構成員にその種の損失の存在を認識させ、注意喚起をうながすことに主眼があり、正確さにこだわって見える化に必要以上に努力を傾けるのは有効な施策とはいえない。それよりも、見えている部分を確実に減らすことに全力を傾けることが肝要である。欧米の先進企業の取り組みには、まだまだ学ぶべき点が多い。 


-編集後記-
 3回に渡ってお届けした早稲田大学・伊藤嘉博教授による「よくわかる品質コストマネジメント」。いかがだっただろうか?全体を振り返ると、品質コストを活用することで「組織の行動そのもの」、ひいては企業体質自体をも変えられることがわかった。売上を高める努力をしなくても現状の仕組みを見直すだけで“企業の利益”につながる施策をとることができるわけだ。長引く不況に加え、震災の影響で先の見えない日本経済において、品質コストマネジメントを導入することが、悩める企業に効く“処方箋”にもなりうる有効な手段となることを願ってやまない。

(編集担当:山下雄太郎)


注釈

*:シックスシグマ
品質管理手法の1つ。統計分析や品質管理手法を用いて製品製造やサービス等のプロセスの分析を行う手法。

過去の寄稿
伊藤嘉博氏 よくわかる品質コストマネジメント

第2回 品質コスト活用の勘どころ(2011/4/11)

第1回 いまなぜ品質コストなのか(2011/3/22)

【関連カテゴリ】

経営改善