Bookshelf ~今月の本

百田尚樹特集(1)

百田尚樹特集

 
 

 
 

2013/10/10

注目を浴びる作家・百田尚樹


 百田尚樹氏は今、一番注目を浴びる作家の1人だ。デビュー作『永遠の0』のヒットで注目を集め、『海賊とよばれた男』で2013年本屋大賞を受賞した。もともとは深夜番組『探偵ナイトスクープ』など、多くの番組の構成を担当していた放送作家。膨大な資料から歴史を読み解き緻密に作られる物語・世界観、さらに人間味あふれる主人公の活躍は多くの読者をひきつけてやまない。親族には戦争の経験者も多く、その影響を多分に受けている。そんな百田氏の作品を今回は取り上げたい。


逆境に打ち克つ姿勢『海賊とよばれた男』


2013年本屋大賞受賞作品『海賊とよばれた男』
2013年本屋大賞受賞作品『海賊とよばれた男』

 毎年、全国の書店員が一番売りたい本を選ぶ「本屋大賞」。2013年の大賞を受賞したのは『海賊とよばれた男』だった。この作品は、出光興産の創業者・出光佐三氏をモデルにした国岡鐵造を主人公に据えた物語。1911年に彼が興した石油を販売する「国岡商店」が、終戦直後に借金を背負う暗澹たる様から、国を代表する大手企業にまで成長する姿を描いている。


 多大な借金を背負った国岡商店だが、さらに国内の大手石油企業から横槍を受けており、まさにどん底。このような状況下にあっても鐵造は1人の社員も首を切らず、ラジオの修理、旧海軍の残油集めなど仕事を地道に見つけていくことで、少しずつ会社を再生していく。終戦からわずか4年後の1949年には、石油の元売りとして正式に認められるまでの急成長を遂げる…。


 マイナスの状況からスタートし、苦難の状況を徐々に好転させていくというストーリー展開はありがちだが、全体を通じて描かれているのは、鐵造の圧倒的な「人間力」である。失敗してもあきらめない信念、石油業界だけではなく、日本の国益まで考えて行動する姿勢、GHQ・日本政府・大手石油企業の圧力に屈さない度胸は、戦争を乗り越えた世代の圧倒的な逞しさを我々に見せてくれる。


 また、鐵造の周囲を固めるユニークな人物も話を盛り上げてくれる。例えば「日田重太郎」。京都の実家を売って6千万円という大金を鐵造に融資し、国岡商店の立ち上げに協力するのだが、そのせいで親類から距離を置かれてしまう。鐵造が門司港で国岡商店を創業するときも、家族を置いて1人で鐵造を追いかけてくる。破天荒で、飄々としながらも、ピンチのときに鐵造を助ける頼りになる人物。重苦しい時代を生き抜く本編の中で、彼の登場がちょうどよいアクセントになっている。


 そして実在した「日章丸事件」に話は向かっていく。欧米諸国が未着手だったイランの石油を獲得するため、鐵造は1953年、原油タンカー「日章丸」をイランに向けて出航させる。これが主導権を握られている欧米の大手石油企業の脱却を図る「国益を考えたもの」であり、同じく欧米系大手石油企業の支配のため、経済的に苦しむイランの人々を救う英断であることに読者は気付くはずだ。この出来事こそ小説最大の見せ場であり、鐵造の男気・判断力・情熱をそこに見て取ることができるだろう。

>>戦争の悲劇を描いた『永遠の0』