Bookshelf ~今月の本

夏の思い出、旅とともに(3)

夏の思い出、旅とともに

 
 

 
 

2013/9/5

『砂の器』と国内旅行


亀嵩(かめだけ)が一躍有名に
亀嵩(かめだけ)が一躍有名に

 海外の話ばかりになったので、少しは国内にも目を向けよう。松本清張のベストセラーで、幾度となく映像化された『砂の器』。この小説では、主人公の今西刑事は本州をくまなく歩いて回る。


 殺人事件が発生した蒲田、犯人と被害者が交わした言葉にあった「カメダ」と「東北訛り」から、秋田県の羽後亀田周辺を捜査する。その後、物語が進むにつれて、三重県伊勢市、島根県の亀嵩(かめだけ)と、主人公は各地に足を運んでいく。


 本書は新聞連載を元にしている。連載当時の1960年~1961年は、見事に「Always三丁目の夕日」の時代。未だ東海道新幹線は開通しておらず、長距離移動で描かれるのは、もっぱら夜行列車だ。


 例えば「東京~亀嵩」間。物語の中で今西刑事は、22時半東京発の急行「出雲」に乗車する。翌朝9時過ぎに大阪着、松江に着いたのが17時過ぎ。実に1日弱の行程を、普通座席だけで移動する過酷な旅路である。しかも、松江から亀嵩にはまだ3時間近くかかるというから、18時間半かけてなお目的地に着けないのである。


 現在はどうか。「東京~亀嵩」で調べると、国内線を利用すれば約6時間、新幹線を利用すると9時間、寝台特急「サンライズ出雲」でも14時間半で亀嵩に到着できる。なんとも便利になったものである。


 亀嵩はそろばんの産地でもある。『砂の器』で多少は観光地化されているようだが、小説を読まねば、地名すら知らずにいた場所かもしれない。


 小説に限らず、物語がきっかけになっている観光地と言えば、明治の文豪・尾崎紅葉の『金色夜叉』をモチーフにした熱海の「貫一とお宮の像」、アニメ『らき☆すた』の舞台の1つである埼玉県久喜市の鷲宮神社など、各地に散らばっている。ゲームでも、鉄道で日本各地をサイコロで回る「桃太郎電鉄」シリーズに出てきた地名や名産品を覚えた人も多いのではないだろうか? いか飯で有名な北海道の森、中津川の栗きんとんなどなど…。


 さておき、これまで挙げた3冊はいずれも「アマゾンの思い出を振り返る」「乗合バスでロンドンまで行く」「(小説ではあるが)犯人を捕まえる」というテーマがある。「桃鉄の『あの駅』に行く!」というものでも、なんでもいい。ゴールを決めて、そこへたどり着くまでのプロセスを楽しむという旅も、また一興ではないだろうか。

(中西 啓)

今回取り上げた本

開高健とオーパ!を歩く 『開高健とオーパ!を歩く』
著:菊池治男 河出書房新社
\1890/224ページ
2012年2月27日
深夜特急 『深夜特急』(全6巻)
著:沢木耕太郎 新潮文庫
\452/238ページ(1巻)
1994年3月30日
砂の器 『砂の器』(上下巻)
著:松本清張 新潮文庫
\704/397ページ
1973年3月27日