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幕末特集(2)

幕末特集

 
 

 
 

2013/5/30

『幕末入門』は、藩ごとに政情分析


それぞれの立場から時代を見る
それぞれの立場から時代を見る

 上様のご高説で江戸時代の概要を知ったところで、本題の幕末である。中村彰彦氏の『幕末入門』は、会津藩の紹介を皮切りに、幕末に起こった事件の土台を、藩別、組織別(新撰組)にわけて解説している。

 会津藩は、3代将軍徳川家光の異母弟だった保科正之が、信州(長野県)の小国・高遠藩から加増されて会津へ転封された。正之は恩を感じ、終生徳川幕府への忠誠を誓う。こうした背景が、新政府に打ち倒されるまで幕府を支え続ける「佐幕」の思想が培われる土壌になる。


 かわって尊王攘夷派の思想がどのようにして形成されてきたかについても、わかりやすく書かれている。関ヶ原の合戦で領地を大量に削られて、もとから「徳川憎し」だった毛利家=長州藩は、「倒幕」を念頭にした尊王攘夷思想が盛んになる。

 同じく尊王攘夷派の土壌を生んだのは、徳川御三家の水戸藩。ここは、かの有名な水戸黄門こと水戸光圀が編纂した「大日本史」から発生した尊王思想。詳細は本書に譲るが、長州とはまた違った経緯で天皇を敬う尊王思想に、天皇が嫌う異人を排除する攘夷思想が組み合わさって尊王攘夷の意識が強くなっていく。

 幕府の大老・井伊直弼が討たれた「桜田門外の変」は、実行犯の18人中、1人を除いて全員が水戸藩の浪人だった。孝明天皇が異人嫌いにもかかわらず、朝廷を無視して強硬に開国政策を進めた張本人として、直弼を嫌ったのが理由である。

 ともすると断片的になりがちな「佐幕」「尊王」「尊王攘夷」「倒幕」などの思想が、どのように組み立てられていったのか。世に有名な寺田屋事件、池田屋事件などはどうして起こったのか。本書を読み進めるとこれらを含めた幕末の流れがよくわかる。

 最終章の「幕末史四つの謎に迫る」では、討幕の密勅(天皇から出される命令)が偽物かどうか、坂本竜馬の暗殺犯は誰だったのか、などに迫っていく。1つ1つの要素をこまめに分析していく謎解きの過程は、スリリングで面白い。

 著者が「どの章から読みはじめて下さってもかまいません」と言っている通り、「土方歳三LOVE!」な人は新撰組からページをめくっていく方がいいだろう。

>>幕末の壮絶なバトルをした人間たちの肖像