Bookshelf ~今月の本

幕末特集(1)

幕末特集

 
 

 
 

2013/5/30

わかりにくい幕末


 2013年の大河ドラマ「八重の桜」は、幕末の会津藩(福島県)が舞台だ。「幕末」は、主に1853(嘉永6)年のペリー来航から1869(明治2)年に北海道の箱館(現・函館)で榎本武揚率いる旧幕府軍が降伏するまでの16年間を指す。「開国以来崩れゆく幕府と、新政府となった薩摩・長州」という図式があり、新撰組や坂本竜馬などの人物がロマンチックな登場をしていることもあって、日本史でも人気のある時代だ。

 ただ、幕府内での尊王・攘夷・佐幕・開国といった方針の違いや薩摩藩、長州藩、そして会津藩の幕府に対する考え方が空中戦を繰り広げ、事件も江戸・京都で同時多発的に発生する。さらには登場人物が多岐にわたる。

 あまりに物事が錯綜して、なんとなく「幕府VS薩長」というイメージ、「新撰組は剣術かっこいい!」程度の印象で終わってしまうのではないだろうか。今回は「八重の桜」の時代、幕末を楽しむための本を3冊ほど紹介したい。


徳川宗家が語る江戸時代
徳川宗家が語る江戸時代

上様の描く『江戸の遺伝子』


 まずはペリー来航までの江戸時代がどのような雰囲気だったのか。せっかくなら、徳川宗家第18代の当主、徳川恒孝(つねなり)氏の『江戸の遺伝子』で読み進めよう。本書の全編にわたって優しく語りかける現代の「上様」は、勤務先であった日本郵船の先輩に「加賀百万石」前田家の子孫がいたという。

 「『前田! 徳川! ちょっと来い!』と呼びつけたのは太閤様以来俺だけだ、とある副部長が言ったというのは伝説です」(本編より)。

 末裔のご本人ならではのエピソードを交えつつ、参勤交代、経済、法制度など、江戸時代の概要が、同時代の欧州諸国と比較しながら描かれている。300藩といわれる全国各地から参勤交代で参集した武士たち。彼らが、江戸で全国の大名家と知り合い、故郷へ帰って江戸の流行を伝える、などということは「世界中に日本以外には」なかったという。

 政権を担っていた武士よりも身分の低かった商人の方が富を蓄えていたことも、富と権力が一体化していた欧州では考えられないことであった。「鎖国」についても全く海外との交流がなかったわけではなく、将軍の代替わりの度に訪問してくる朝鮮通信使や、幕府がオランダに提出を義務付けていた世界動向の報告書もあった。江戸時代の人間には「鎖国」といった感覚はなかったそうだ。

 また、開国の際に米国と日米和親条約を結んだのは、「アヘンの密輸を認めない」と明確に記してあったためだ、というのも言われてみればうなずける。直前に隣国・清のアヘン戦争を目の当たりにし、この条項を確認して締結したというのだ。

 「著者のご先祖様の時代」という身内びいきを差し引いても、奴隷貿易、南米進出などにみられる同時代の欧州列強に対する鎖国・開国を含めた幕府外交の実体は、ある意味で新鮮な視点を与えてくれる。

>>ゴタゴタした幕末事情を紐解く