Bookshelf ~今月の本

『等伯』

等伯_著:安部龍太郎

著:安部龍太郎
日本経済新聞出版社

上:\1680/350ページ 下:\1680/369ページ
発売日:2012年9月15日

2013/3/21

人々を魅了する長谷川等伯の生き様と珠玉の作品の数々


 本書は第148回直木賞受賞した安部龍太郎氏の歴史小説。主人公は一代で狩野派と並ぶほどの名声を築いた能登国(今の石川県)七尾出身の絵師・長谷川等伯だ。天下一の絵師を目指す絵仏師・等伯は自身の過失から、義父・義母を自害させてしまい、故郷を追われる身となる。しかし、天性の才能と不断の努力によって『日堯尊像』など評価の高い作品を世に送り出し、京都で名をはせた存在となっていく。

 その後、己の技量を磨くため狩野派の門弟となることを許された等伯は生涯のライバル・狩野永徳と対峙。襖絵の上手さで勝負を競う運びとなる。当時の永徳は織田信長・豊臣秀吉といった時の権力者に重宝された御用絵師。この無謀とも言える挑戦が前半の大きな山場となっている。

 また、等伯が歴史上の有名な人物とかかわることで、今も世に残る傑作を生み出していくことが本書の見せどころ。例えば『利休居士像』は等伯と深い親交があり、良き理解者だった千利休の死を悼んで等伯が描いたもの。また、等伯の絵を好み重用した豊臣秀吉の長男・鶴松の菩提を弔うため、苦心の末に『楓図壁貼付』を完成させるエピソードなど、それぞれの話が読む者を引き付けて離さないストーリーとなっている。

 絵を描く過程で、様々な人と出会って影響を受け、多くの困難を経験し、絵を完成させる――真摯に絵に取り組む等伯の姿に、道を究めようとする者へ抱く畏敬の念を感じずにはいられない。

 そして物語は、等伯を脅かすほどの才能を持ち、天塩にかけて育ててきた最愛の息子・久蔵の急死へと進んでいく。悲しみに暮れる等伯。しかし絶望の中で生涯の大作『松林図屏風』を完成させ、誰もとどかない「絵の極み」に到達するという展開は目を離すことができない。

 安土桃山時代という華やかな時代に、実力で評価を勝ち得ていく等伯の圧倒的な力強さに魅了される。最後まで読むものを飽きさせない「稀有な一冊」と表現して差し支えないだろう。

(山下雄太郎)