Bookshelf ~今月の本

『拉致と決断』

拉致と決断_著:蓮池薫

著:蓮池薫
新潮社

\1365/223ページ
発売日:2012年10月15日

2013/1/17

拉致被害者の想像を絶する生活を告白


 本書は蓮池薫氏が、北朝鮮に拉致された24年間について書いたものだ。日本では当たり前である「好きなところに行き、好きな服を着て、好きなところに住む」ことがもしも制限されてしまうとしたら…。そんな想像もつかないことが「拉致」という現実の前では起きるのが、この本を読めば理解できるだろう。


 北朝鮮で拉致され、指導員に24時間体制で監視される「招待所」生活を送ることになった筆者。考えられる自由はあるものの、言葉に出したり、表情に出すことを制限されてしまう。さらに日々のことを日記に書き、指導員に提出。対外的には『帰国した在日朝鮮人』とし、身分を明かさないという生活を24年間続けていく…などといった悲しくも驚くべき事実が明らかにされている。


 その後、小泉純一郎首相の政権時に日朝首脳会談が行われ、日本人拉致問題が大きく進展。2002年10月15日に日本に帰国することになるものの、当初は子供を北朝鮮に残すことと、10日後には北朝鮮に再び戻ることが前提条件とされたものだった。2人の子供が危険な目に合わないよう、帰国してまでも言葉を慎重に選び、行動を制限する著者。のちに子供が日本に帰還し、自らの北朝鮮への帰国義務も解けるとはいえ、子供の安全を心から願う当時の著者の心境は、察するに余りある。


 また、本書を読んで引き付けられるのは、著者の目から明らかになる北朝鮮の実態だ。一般市民は国からの食糧配給をもらう配給制があるものの、ぎりぎりの配給の中で生活しなければならない。貯蓄してきた食料を食べ尽くすと、闇市で売っている高価格の穀物を購入するしかないという現実が待つ。市場には是が非でもその日の食費を稼がなければならず、常に盗人に売り物を奪われないようにする老婆の姿が…。「食糧難」「世界からの孤立」という切実な国の情勢が、その著者の目に映る1つ1つの情景をさらに物悲しくしている。


 拉致被害者の現実が生々しく描かれているため、その拉致問題の深刻さを改めて痛感できる。それと同時に我々自身の何気ない日常がどんなに恵まれたものであるのかを確認することができる。日本と北朝鮮の関係を考えるうえでもぜひ読んでおきたい一冊だ。

(山下雄太郎)