Bookshelf ~今月の本

『のぼうの城』

のぼうの城_著:和田竜

著:和田竜
小学館文庫

上:\480/224ページ 下:\480/224ページ
発売日:2010年10月11日

カバーイラスト:オノ・ナツメ

2013/1/10

名将? 大戦の横で行われた小さな攻防


 豊臣秀吉の“小田原攻め”。あるいは“関東平定”。


 1590年、安土桃山時代に行われた秀吉の天下取り事業の中でも、総仕上げともいえるこの戦は“豪華な”戦としても知られる。20万人という兵力を動員し、敵対する北条氏がこもる小田原城の周りに立派な山城を建造して囲み、北条方が干からびるまでじっくり待ったという。そんな豪華な戦の片隅で、本城・小田原城開城まで唯一持ちこたえた支城があった。それが小田原城のはるか北、現在で言うところの埼玉県行田市にあった忍城(おしじょう)いわゆる「のぼうの城」である。


 忍城を攻める側(=寄せ手)は石田三成が率いる2万。対して忍城に残っている兵はわずか500。そして忍城を守るのは、うだつがあがらず、戦術も武芸もからきしダメ、ただ親しみやすい人柄のためか領民にからかい半分で、でく「のぼう様」と慕われている成田長親(ながちか)。いくら城にこもり守る方が有利とは言え、とても歯が立つような兵力差ではない。


 では、この絶望的な状況を「のぼう様」こと、成田長親はどのように切り抜けたのか? 成田長親がとった意外な策略とは? これまでの名将のイメージを覆す策略・駆け引きに、寄せ手の石田三成も読者も思わず「あっ」と言わされてしまう。


 2012年11月には映画化された本作。戦国・安土桃山時代という最も華やかで、物語にされやすい時代に、綺羅星のごとき有名人が戦う片隅で、自分の世界のために命をかけて戦った小さな英雄の物語。歴史小説だが、特に歴史的な知識はなくとも読める平易な文章なので、幅広い年齢層にお勧めしたい。

(井上宇紀)