Bookshelf ~今月の本

『新幹線 お掃除の天使たち』

著:遠藤功
あさ出版

\1470/189ページ
発売日:2012年8月28日新幹線 お掃除の天使たち_著:遠藤功

2012/12/20

新幹線の清掃員から学ぶ、日本が誇る“現場力”


 駅に新幹線が到着してから数分しかたっていないのに、車内に入ると座席がきれいになっていることに気が付く読者もいることと思う。この本の主役はテッセイ(鉄道整備株式会社)の従業員、つまり新幹線の清掃員だ。一見、地味で目立つことのない仕事のようだが、われわれ乗客のために快適な空間を提供しようと、心をこめて清掃する姿や徹底した仕事ぶりから学ぶことは多い。実際に『日経ビジネス』や「ワールドビジネスサテライト」にも取り上げられるなど注目を集めている。

 このテッセイの清掃員が1日に清掃する車両本数は約110本にも及ぶ。駅のホームに列車が止まり、乗客が乗るまでの時間はたった7分。その短時間の間にすばやく車内に入り、てきぱきと自分の持ち場での仕事にとりかかる。もちろん、どんなにトイレが汚くても、7分で完璧に仕事を終えなければならない。1チーム22人で構成されており、掃除が終わらない持ち場は各自が助け合っていく。このように現場によって臨機応変に対応し仕事を完遂する姿勢に、プロフェッショナルの要素が凝縮されていることに気付かされる。

 さらに注目すべきは、こうしたプロとしての仕事ばかりではなく、彼ら・彼女らの礼儀正しさだ。清掃のために列車に乗り込むときには乗客への一礼は欠かさない。乗客1人1人に声をかけ、時には荷物を運んだり、座席のある車両を案内するなど乗客の旅路をサポートするその姿を見ると、とても清々しい気持ちになる。これは従業員が「清掃会社だから清掃の仕事ばかりやればいい」のではなく「お客様に気持ち良く新幹線を利用してもらいたい」という役割を理解しているからだろう。

 また、テッセイの清掃員が与えられた仕事に対して「こうすればよくなるはず」と現場目線でアイデアを出し、実現していく風通しの良さも見逃せない。本書が取り上げる、清掃員が上司に提出する「エンジェル・リポート」からは、現場が改善されていく様子が読み取れる。たとえば作業中の清掃員に赤ちゃんをあずけてトイレに入る母親が多いことから、トイレの横にベビー休憩室が誕生する。誕生当初、この場所は赤ちゃんをあずけることをためらうような殺風景な場所だったものの、「おひなさま」「桜」「こいのぼり」など季節ごとに飾り付けを行うことで気軽に使いやすい雰囲気になった。

 チームとして協力し合いながら、それぞれの持ち場のなかで精いっぱい努力し、乗客にも真摯に対応していく――それぞれの心温まるエピソードが本書に散りばめられており、読めば誰もが“テッセイの清掃員=お掃除の天使たち”と呼ぶのにふさわしいと感じるに違いない。

(山下雄太郎)