Bookshelf ~今月の本

『鍵のない夢を見る』

鍵のない夢を見る_著:辻村深月

著:辻村深月
文藝春秋

\1470/342ページ
発売日:2012年5月15日

2012/11/01

第147回直木賞受賞作品、5人の女性の心理を丁寧に描いた作品


 友人とのやり取り、恋人の犯罪行為、育児ノイローゼ…。選択を迫られた5人の女性を5つの物語の中で、その選択に至るまで、何故その選択をしたのか、そしてその後どうなったのか。丁寧な実在感のある心理描写・人物描写とともに描いている。

 登場人物はどれもカッコよくも、素晴らしくもなく、ひたすらに人間臭い。それだけに、登場人物の行動や言動、心理の動きが的確に描かれており「ああ。確かにこういうやついるだろうな」といちいち腑に落ちる。

 ただ読後は、物足りなさを感じた。5つの短編がぽつぽつと並んでいるだけで「通して何かを感じるか?」というとあまりない。何故この5つを1冊にまとめたのか、理由もいまいちわからない。

 直木賞という大きな賞を取る作品である。当然、最後に5つの話を伏線とするような、読者を「ああ!」と納得させるような、結末に向けた物語の技巧が凝らされていると期待を込めて読んでいたので、肩すかしをくらった。それほど、それぞれの話の“尻切れ感”が強い。

 心理描写や、人物の実在感などは実に生々しく、文章の技術面に関しては手放しで褒められる。また女性の読者ならば、登場男性の「女性から見たダメっぷり」には、深く共感できることだろう。

(井上宇紀)