Bookshelf ~今月の本

『経営学を「使える武器」にする』

経営学を「使える武器」にする_著:高山信彦

著:高山信彦
新潮社

\1470/183ページ
発売日:2012年5月18日

2012/10/18

「生きた経営学」を学んだ社員が企業を変革する


 本書の著者は経営コンサルタントの高山信彦氏。同氏は契約を結んだ企業に対して、1枚もレポートを提出しない。そのかわり、企業内に併設したゼミナール方式の授業で、マイケル・ポーター氏の経営書『競争優位の戦略』など、経営書の古典を読み込ませる。その上で、これまで上司に言われるままに仕事をこなしていればよかった社員=生徒に、自社の課題を調べこませ、考えつくすことを求める。その過程で、生徒は自尊心を傷つけられ、涙を流すことさえあるという。

 著者は生徒に取り組ませるテーマについて、How(「どのように~するか」)ありきではだめでWhat(「何故~するか」)で示すように考えさせる。つまり「人材をどう育成すべきか」「財務体質をどう改善すべきか」でなく、そもそもなぜ人材が不足しているのか、財務体質が弱いのかなど、根本的なところから考えさせる。さらに、業界を細分化させて自社が有利に戦える土俵を発見させ、実際に現地に行って顧客の声(VOC:Voice Of Customer)を収集させる。そうした「生」の声が経営の変革のカギを握るという。

 こうした「社員が徹底的に調べ、考えつくした答え」によって、実際に企業が変革していく点が、単に経営理論を並べる他の本と本書が決定的に違うところだ。広島県福山市で造船業を中心に11社28事業を擁する常石造船も、著者の授業を受けた社員のアイデアが結実し、2007年に企業再編が行われることとなる。同社は「ツネイシホールディングス株式会社」として集約・合併し、社内カンパニー制を導入したことで、グループ総合力を発揮できる体制になった。

 また、東レの場合、合繊における技術力は世界的に定評があるものの、以前は横の連携がなかったため、技術力が最大限に発揮されているとはいえない状況だった。しかし著者の講義を受けた社員が経営改革に着手。国内外の拠点を活用し、製品を小売業者と一緒に作り上げる体制を整えていった。ユニクロと連携することで機能性を重視する製品が開発され、「ヒートテック」のような爆発的なヒットが生まれたのも好例だろう。

 ポーター氏の著書のような、代表的な経営書を読み込んでいくことで得られる「ロジック」と、直接現場に行ってVOCを集め、自分の戦略の正しさを証明しようとする「情熱」。その両方がかみ合ったとき、周囲を感動させ、巻き込み、企業を変革していく大きなうねりになる。これまで経営書を読んでもなかなかイメージしづらかった読者にも、著者の講義を受けた企業が変革して、生まれ変わる様子がはっきりと読み取れる。そうした「現実感」が本書の醍醐味であり、読む者を飽きさせない。「経営」というものについて本当に学ぶことの多い、そして「読んで良かった」と読者に思わせる一冊だ。

(山下雄太郎)