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公認会計士松澤大之
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「IPA Forum 2009」が開催

 クラウドコンピューティングの台頭や情報爆発などにより、ITを取り巻く環境が今まさに大きく変わろうとしている。その中で、ITに携わる組織や人材はどうあるべきなのか―。情報処理推進機構(以下IPA)は2009年10月29日、「IPA Forum 2009」を東京都内の明治記念館で開催した。

 IPAでは「情報セキュリティ対策」「ソフトウェア・エンジニアリング」「IT人材の発掘・育成」「オープンソフトウェア」の4分野を重要領域に掲げ、その研究・整備・普及に取り組んでいる。

 「IPA Forum 2009」は、IPA設立翌年の2005年から毎年開催されており、今回で5回目となる。今年もこれら4分野に関する各種表彰や活動報告、産学からの事例紹介などが行われたが、今年のフォーラムではITを取り巻く社会環境の激変、また2009年4月に行われた情報処理技術者試験のリニューアルを受け、特に人材育成に関して多くの講演者が言及していた。

 午前中の「人材育成鼎談」では、IPA理事長の西垣浩司氏を司会に、九州大学大学院システム情報科学研究院教授の安浦寛人氏と、日本経済団体連合会(経団連)会員の有志企業からなるNPO法人・高度情報通信人材育成支援センター(CeFIL)理事長の黒川博昭氏が登壇。それぞれトップレベルのIT人材育成に向けた各活動を紹介するとともに、今後求められる人材像とその育成のあり方について議論を交わした。

 安浦氏は、「これまで大学では設計・製造技術の人間を育成してきたが、どんなサービス・社会を作るかは学生に教えていなかった。今後は産業界が本当に必要としている、専門性と社会性を兼ね備えた人材育成のための教育体制を組む必要がある」とコメント。そのための具体的取り組みとして、バングラデシュ・グラミン銀行との共同研究開発によるマイクロクレジット*1電子化実証実験の事例を披露した。
黒川博昭氏は産業界、安浦寛人氏は教育研究機関の立場からIT人材育成を議論
黒川博昭氏は産業界、安浦寛人氏は教育研究機関の立場からIT人材育成を議論
 同氏はその中で、「現在、多くの途上国で水道や電気より早く携帯電話が普及しており、我々と同じような発展の道をたどるわけではない。だからこそ、途上国には我々が考えもつかないようなニーズがある」と主張。この共同研究開発を通じて、設計・製造技術だけではなくサービスや制度まで考慮に入れた“社会主導型研究開発”に対応できる人材が育成されていることを、成果の1つとして挙げている。
 対して黒川氏は、社会保険庁の年金記録問題において一部で「ITシステムを作った人間が悪いのではないか」とされたことに言及。問題が発生した本当の原因は「その時の政治家や一部の評論家がITに関し極めて無知だったため、必要な機能がわかりやすく体系化されないまま不完全なシステムが構築されたことにある」と述べ、同様の事態が発生するのを防ぐためにも、「営業など技術職以外の人材に対してもITの教育を行うべき」と訴えた。

 午後からの「IT人材育成セッション」では、情報処理技術者試験のリニューアルに伴い2009年4月からスタートした「ITパスポート試験*2」などの、人材育成における活用事例が紹介された。
ITパスポート試験などを導入する意義を「高校生の社会に対する視野拡大」とする河合洋氏
ITパスポート試験などを導入する意義を「高校生の社会に対する視野拡大」とする河合洋氏
 2007年4月に開校した日本初の産業科専門高校、東京都立八王子桑志高等学校からは、主幹教諭の河合洋氏が登壇。同校がコンピュータそのものだけではなく「コンピュータを“活用するための”知識や技術の習得」を目標とする方針に基づき、ITパスポート試験や「基本情報技術者試験*2」をカリキュラムに導入した経緯を説明した。

 また同氏は、現代の高校生が抱える問題についても触れ、「最近の高校生は自分の身の回りのことには敏感に反応するが、社会の状況についてはなかなか考えない。だがこれら試験を通じ、特にストラテジ系とマネジメント系の分野を学習するのは、高校生が社会を見る目を広げる上で大いに役立つ」と、両試験導入の意義を語っている。

 フォーラムの最後には、情報セキュリティ上の脅威に対する防御策をテーマにパネルディスカッションが催されたが、その中でも人材育成の重要性を訴える場面が見られた。

 IPAセキュリティセンター 情報セキュリティ技術ラボラトリー研究員の鵜飼裕司氏によれば、不特定多数ではなく特定の個人・組織を狙って信頼できる第三者を騙る「なりすましメール」に、OSではなくOffice系やPDFなどアプリケーションの脆弱性を突いたウイルスを添付し感染させる「標的型攻撃」が近年急増し、2009年4月には同センターを騙った攻撃も発生しているという。

 同氏は「なりすましメールは文章もよくできており、署名には本当の調査員のプロフィールが記載されるなど、受信者は攻撃の存在を推測するのが困難。専門家でも騙されるかもしれない」と警告。さらにはベンダー側でも未対策の脆弱性を突いた「ゼロデイ攻撃」の存在や、自動生成ツールで量産されるウイルスに対しベンダー側の対応が追い付いていない現状など、技術的な対策の限界を指摘した。
パネルディスカッションでは標的型攻撃に対する人材育成の有効性について語られた
パネルディスカッションでは標的型攻撃に対する人材育成の有効性について語られた
 これに対し、ラック サイバーリスク総合研究所長の新井悠氏は、2005年にいち早く標的型攻撃(当時は「スピア型攻撃」と表現)を認知した経緯について、「標的型攻撃を発見した報告者は情報セキュリティの教育を受けており、実際に資格も有していた。IPAでは情報処理技術者試験を実施しているが、そういった資格は決して無駄ではない」とコメント。既存のアンチウイルスシステムでは防げない新手の攻撃に対し、最終的には知識を有する人材がそれらを検知する、という例において人材育成の重要性を訴えるとともに、その上で同試験が一定の役割を果たすとの見解を示している。

 ITがより高度かつ大規模、複雑なものへと進化していくにつれ、そのすそ野はより多くの一般ユーザへと確実に広がっている。そうした潮流の中でITの教育は、専門家を目指すものにとっては単にITそのものに留まらない広範な知識・技術を、そして直接ITの開発に携わらない技術職以外の一般ユーザにとっても、社会への見識とコミュニケーション能力を身につける上で、必要不可欠になりつつあることを、強く実感させるフォーラムとなった。


情報処理推進機構(IPA)のホームページはこちら

「『IPA Forum 2008』が開催」セミナーレポートはこちら



※この講演とセキュリティプラットフォームは一切関係ありません。




注釈

*1:マイクロクレジット
失業者や貧困層を対象に、無担保低金利でごく少額の融資を行うサービス。

*2:ITパスポート試験、基本情報技術者試験
いずれもIPAが主催する情報処理技術者試験の1つ。「ITパスポート試験」は、職業人が共通に備えておくべき情報技術に関する基礎的な知識の習得を目的とした、最も基礎的な試験。「基本情報技術者試験」は、高度IT人材となるために必要な基本的知識・技能及び実践的な活用能力の習得を目的とした試験で、「ITパスポート試験」より1つ上位(レベル2)に位置する。


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