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公認会計士松澤大之
内部統制で変革すべき
は“個人の意識”
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セミナーレポート
行政手続きをスムーズにする“電子私書箱”の可能性

参加者は募集定員である100余名に達し、電子私書箱への注目度の高さが感じられた
参加者は募集定員である100余名に達し、電子私書箱への注目度の高さが感じられた
 「電子私書箱」とは、行政手続きの電子化の一環として、個人情報を集約するシステムで、医療機関や保険者などに管理されている情報を、希望する国民がみずから入手・管理できる仕組みのこと。これらが実現すれば、医療カルテ、年金、社会保障関連など、従来は組織別に管理されていた情報を国民が自らインターネットを介して簡単に入手閲覧できるようになり、煩雑かつ複雑であった諸々の事務手続きが、安全・便利かつスピーディに行えるようになる。

 2009年9月30日に東京都港区の機械振興会館にて、次世代電子商取引推進協議会(ECOM)は「第38回ECOMセミナー 電子行政基盤と電子私書箱」を開催。電子私書箱の実現に向けた課題とともに、欧州における電子行政基盤(行政手続きのための情報システムを中心としたインフラ基盤)の事例なども紹介された。
東京工業大学 像情報工学研究施設教授 大山永昭氏
東京工業大学 像情報工学研究施設教授 大山永昭氏
 最初の講演では、電子私書箱の提案者で社会保障カード(仮称)*1検討会(厚生労働省)座長でもある、東京工業大学教授の大山永昭氏が壇上に立った。
 現在、医療や社会保障の情報は、それぞれのサービス機関単位でバラバラに保有されているが、電子私書箱では「個人単位」での管理を目指す。「医療費、社会保障費はきちんと保護された形で、本人に開示するべきものである。それを電子的に本人に開示する方法として考え出したのが電子私書箱。サイバー空間上に個人のアドレスを持っていれば、仮に転居しても、確実に本人に情報を届けることができる」と大山氏はその概念を説明した。
 通常の電子メールとの最大の相違点であり、この制度の核となる課題として、大山氏は「情報の発送元がきちんとしていて、改ざんの余地がない状態を保証するための仕掛けを作ることが重要になってくる。PKI( Public Key Infrastructure)*2の技術が本当に生きてくる場面を作り上げたい」と語った。

 また電子私書箱のメリットとして「ねんきん特別便」を例に挙げた。現状、該当者に送付する際に、電子情報を紙に打ち出し、封書に入れ郵送するという方法では、1回300円×1億人で、計300億円かかっている。1割が宛先不明で戻っているという現状もあり、政府の経費削減にも繋がると力説した。
NTT情報流通プラットフォーム研究所 政本廣志氏
NTT情報流通プラットフォーム研究所 政本廣志氏
 次にECOMの主な取り組みのひとつである「電子署名*3」に関する調査報告として、NTT情報流通プラットフォーム研究所の政本廣志氏が講演。電子署名が日本でなかなか普及しない要因を探るとして、「海外における電子行政のための認証基盤」と題し、EUにおける先進事例を分析した。

 IT立国を目指すエストニアは、eIDカード(国民に与えられる証明用電子IDカード)の付与を15歳以上に義務化し、人口135万人に対し100万枚(2008年1月時点)発行されているという抜群の普及率を誇る。このカードによる認証と電子署名を利用し、世界で初めて、国レベルのインターネット選挙を行った例が紹介された。
エストニアの事例
出典:第38回ECOMセミナー資料「海外における電子行政のための認証基盤 」2009
©2009 Next Generation Electronic Commerce Promotion Council of Japan, All rights reserved.
(クリックすると拡大します)
 同時にセキュアなデータ交換基盤である「X-Road」についても紹介された。これは国民のデータを集中的に管理している基盤であり、国民は自分の個人情報にアクセス可能であるのはもちろん、誰が自分の情報にアクセスしたかの確認も可能だ。国民が安心して利用できる電子行政基盤の普及においては、これらのような高度で、かつ標準化されたセキュリティ技術が必要となる。

 先進事例の特徴として政本氏は、「高い認定基準により一定のコストを要する電子身分証明書は、民間企業による普及は難しく、法制度による強制力が必要である」ことを挙げた。また、「紙文書から電子文書へ、社会の主流を移行させるには強固とした国の方針が必要である」とし、技術とともに国の体制の必要性を指摘した。

 「電子私書箱」をはじめ電子行政基盤が、国民にとって安心・便利なインフラになるべく、今後の動向にも注目したい。


※この講演とセキュリティプラットフォームは一切関係ありません。




注釈

*1:社会保障カード(仮称)
年金手帳、健康保険証、介護保険証を集約させたICカードのこと。事務処理手続きの効率化促進や、自身の健康情報やレセプト、年金記録といった情報基盤のアクセス・管理をするキーカードとして活用が期待されている。厚生労働省は、2011年度の導入を目指して検討を進めている。

*2: PKI( Public Key Infrastructure)
公開鍵暗号基盤、公開鍵暗号方式を利用したセキュリティインフラのこと。電子署名法や電子政府構想などにより、昨今PKIの重要度は高まってきている。

*3:電子署名
電子文書が作成名義人によって本当に作成されたかを証明する仕組み。紙文書における印や署名に相当し、本人確認をするためのものである。主なものとしては公開鍵暗号方式に基づくデジタル署名など。


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