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「NICT超臨場感コミュニケーションシンポジウム」が開催

 TVなどのモニタにおいて、映像・音声をより高精細に、視界を二次元から三次元へと広げ、さらには視聴覚以外の五感をも再現する技術が実用化された暁には、どのような体験・コミュニケーションが可能になるのか――。総務省所管の独立行政法人、情報通信研究機構(以下NICT)は2009年8月26日、東京・秋葉原で「NICT超臨場感コミュニケーションシンポジウム」を開催した。

 VR(Virtual Reality。仮想現実)の研究を専門とし、NICTプログラムコーディネーターを務める、東京大学教授の廣瀬通孝氏はまず、NICTが今回のシンポジウムや一連の研究開発でキーワードとして掲げている「超臨場感」について解説。その中でも“超”について、「“Super”、現状のハイビジョンよりも大きく細かな画面でリアリティを高めていくような、現在の技術をより高度なものへ連続的に進化させるという意味がある」と定義した。

VR技術による超臨場感の役割を「目に見える以上のものの可視化」と語る廣瀬通孝氏
VR技術による超臨場感の役割を「目に見える以上のものの可視化」と語る廣瀬通孝氏
 それ以外にも「例えば匂いを嗅ぐことができたり、時差を考慮せずに海外とTV会議ができるようになるなど、従来とは質的に違った別のものへと不連続に進化していく“Meta”の意味もある」という。

 同氏は具体例として、2009年7月22日に発生した皆既日食に触れ、単に太陽が欠けているのを見せるだけではなく、周囲が暗くなり、気温も急激に下がって鳥が騒ぎ出している状況を、空間ごと伝えるようなことを目指すのが「超臨場感コミュニケーション」であるとした。

 その上で廣瀬氏は、AR*1ライフログ*2、実空間に三次元映像を展開する「実体型ディスプレイ」といった技術を、リアルな世界とバーチャルな世界が結び付いた第二世代のVRとして紹介。これらVR技術がもたらす超臨場感コミュニケーションの役割を「本来なら時間的、空間的に目に見えない、体験できないものを可視化し体験可能とすることにある」とし、そのことにより「その場にいる以上の臨場感をもたらし、より深い感動と理解、創造力を与えることができる」と主張した。

 続いて映画監督であり、早稲田大学芸術科学センターで客員教授として映像技術の研究も行っている樋口真嗣氏は、自身が手掛けた映画「ローレライ」を披露するとともに、TVアニメ「電脳コイル」やアニメ映画「サマーウォーズ」、1983年のハリウッド映画「ブレインストーム」などで描写された、物語上の超臨場感コミュニケーション技術を紹介。さらに映像技術を利用する制作者の立場から、超臨場感コミュニケーションを可能とする三次元映像技術について言及した。

映像制作における三次元映像技術の高い将来性を説く樋口真嗣氏
映像制作における三次元映像技術の高い将来性を説く樋口真嗣氏
 同氏は「今まで平面的にしか見えなかったものが立体的に見えるようになることで、逆に映像上のトリックを使うのが難しくなる」とコメントする。と同時に、「TVがモノクロからカラーになったらモノクロが一気に陳腐化したように、三次元映像の味を一度知ってしまったら二次元にはもう戻れなくなるだろう」と、その魅力を自身の体験とともに熱く語った。

 三次元映像で撮るに相応しい被写体として樋口氏は、マヤ文明の遺跡や南米の熱帯雨林といった、現実に存在するが大多数の人が実際には見られないものを再現する、学術的コンテンツを例示した。また「例えば食べ物は三次元映像で撮ると本当に美味しそうに見える。人間の欲望に直結したものは、伝達したり見せたりするのに良いのではないか」と述べ、三次元映像が広告などマーケティング領域で広く活用される可能性を示唆した。

 シンポジウムの中盤では、NICT自身に加え、NICTから委託を受けた大学や企業がそれぞれ研究開発の成果を発表。講演会場の外ではパネル展示や試作機のデモンストレーションが行われ、多くの来場者から注目を集めていた。

<当日公開された主な超臨場感コミュニケーション技術のデモンストレーション>

多感覚インタラクション  

多感覚インタラクション
立体映像・音・感触を統合して、あたかもそこに実物があるかのように、視聴覚・触覚をリアルタイムで再現するシステム。立体映像には三次元眼鏡、触覚の再現にはモーター内蔵のペン状デバイスを用いている。当日は高松塚古墳から出土した「海獣葡萄鏡」を、紋様の凹凸や澄んだ音色、重さや錆まで“超臨場感”溢れる状態で体感することができた。

マルチスペクトル映像  

マルチスペクトル映像
RGB3原色の加法混色ではなく、スペクトル(プリズムで太陽光を分解して得られる、連続した7色の色帯)を用いることで、より実物に忠実な色再現を行う技術。撮影側の状態に関わらず、観察側(写真)の照明に応じて色再現することが可能。遠隔診断医療や手術映像撮影の実証実験が、2009年3月に岡山県笠岡市で行われている。

インテグラル立体テレビ  

インテグラル立体テレビ
スーパーハイビジョンの超高精細映像技術を応用し、特殊な眼鏡等を用いることなく、目に優しい立体的な映像表示を実現したTV。観る人が水平もしくは垂直方向に動くと、その位置に応じた立体映像を見ることができる。

キューブ型立体ディスプレイ  

キューブ型立体ディスプレイ
平置きの液晶モニタから箱状のディスプレイへ立体映像を移すことで、360度どんな方向からでもその映像を観察できるシステム。将来的にはワイヤレスかつ持ち運び可能な状態とし、図鑑などに用いるのを想定しているという。


 しかしながら、超臨場感コミュニケーションが実現したのちに、必ずしもバラ色の未来が待っているとは限らない。パネルディスカッションに登壇した精神科医・立教大学教授の香山リカ氏は、幻覚症状や多重人格に悩まされている患者の症例を挙げ、「彼らはまさに超臨場感コミュニケーション技術がもたらす世界を、高度な技術や巨額な装置を用いることなく、望まずして苦痛として体験している」と指摘する。

香山リカ氏(写真左から2人目)は精神科医としての診療経験から、超臨場感コミュニケーション技術のあり方について問題提起
香山リカ氏(写真左から2人目)は精神科医としての診療経験から、超臨場感コミュニケーション技術のあり方について問題提起
 そして苦痛の原因を「自分で自分をコントロールできない、あるいは自分の考えていることが外部に漏れ、逆にコミュニケートしたくない他人からは勝手にメッセージが届けられてしまうなど、自我の境界が守られないことにある」とし、超臨場感コミュニケーション技術が、それを望まない人にとっては、もしくは過剰な刺激となった場合は、体感幻覚や多重人格と同様の苦痛をユーザにもたらす危険性を警告した。

 NICT理事の宮部博史氏は閉会の挨拶で、「新技術の開発において、特に技術者は光に向かって突き進む傾向があるが、それだけではなく影の部分にも目を向ける必要がある」と香山氏に同調。「コミュニケーションは、最終的にはやはりバーチャルではなくリアルなもの。いろんな自我を持った境界同士が侵略せずに、お互いの気持ちを伝えることを一番の基本としなければならない」と会場に訴え、このシンポジウムを終了した。


情報通信研究機構(NICT)のホームページはこちら



※この講演とセキュリティプラットフォームは一切関係ありません。




注釈

*1:AR
Augmented Reality。拡張現実。カメラを介して認識した現実空間に対し、その場所や空間に連動した映像・音声を部分的にモニタへ合成し、ユーザにフィードバックする技術。

*2:ライフログ
PCや携帯電話といったコンピュータから取得できる、ある特定の人物が行ったありとあらゆる行動の記録。またはその記録から嗜好や行動パターン、人間関係を分析し、マーケティングや健康管理などに活用する技術を指す。


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