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ARGフォーラム「この先にある本のかたち」が開催

 インターネットの学術利用に関する情報を提供するメールマガジン(1998年創刊、約390回発行)を発行するACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)は8月17日、東京都千代田区の一橋記念講堂で第1回ARGフォーラム「この先にある本のかたち―我々が描く本の未来のビジョンとスキーム―」を行った。
 このフォーラムは書籍の電子化やオンライン化への対応、図書館の書籍の電子化への取り組みなど、本の未来について話し合うためにARG代表の岡本真氏が中心となって開催されたものだ。

ARGフォーラム「この先にある本のかたち」
会場には出版関係者などが集まった
ARGフォーラム「この先にある本のかたち」
会場には出版関係者などが集まった
 冒頭では国立国会図書館長の長尾真氏が基調報告を行った。長尾氏は「以前まで一部の著作者がクリエィティブな仕事をしてきた。しかし今日ではインターネットが普及して、ブロガーが増えるなど、すべての人が発信者であり、受信者であるという時代が本格的に到来してきた」と話し、そうした時代では「情報の信頼性」が重要視される流れとなることを説明した。

 実際にネット上には様々な情報があり、信頼できる情報と信頼できない情報がある。 その中から、信頼できる情報だけをすべて取り出すことは非常に難しい問題だ。そこで国立国会図書館では今年7月に国立国会図書館法が改正されて以降、地方公共団体、国立大、独立行政法人が発信している信頼性の高い情報を、国立国会図書館が集めて、システム化することに取り組んでいる。

 長尾氏は著作権法の改正によって、国立国会図書館については著者の許諾を得なくても、書物のデジタル化が可能になった旨を明らかにした。このデジタル化の第一の目的は書物の保存である。つまり、本の閲覧・複写に関して、200年、300年先の人が利用することを考えると、デジタル化することが必要なのだ。

 さらに同氏は電子図書に移行することによって、新しい検索方法を活用できると提案した。これは、電子図書にすることによって本の目次にしたがって構造化することで、第何章第何節の第何項という部分を、そのページの中だけを取り出せるといった仕組み(階層構造検索)だ。長尾氏は、この電子図書館で用いるシステムを、京都大学で1994年に作ったことを説明。こういった検索の仕方が実用的になることに期待を寄せた。
 そして「これからの時代は『この本のどこかにあなたの必要とする情報が書かれています』という『情報検索』から、『この本のこのページのここに、あなたの質問に対する答えが載っています』という『事実検索』の時代になる可能性が高い」と指摘した。

 同氏はさらなる課題について、電子図書館をつくって何でもできるようにしようとすると、出版事業を脅かすことになると解説。つまり無料で図書館の情報を全部見ることができるようになると、本は売れなくなってしまうことになる。そのため、利用者と著作者の両方が満足できるような「閲覧に関するビジネスモデル」をつくることが非常に大事になってくると語った。

 一方、ITジャーナリストの津田大介氏は雑誌のライターや編集プロダクションの代表を経験してきた経緯に触れた。そしてこれからの出版社の役割として、自分の興味のある著者がどういう活動をしているのかを知ることが、その著者自身やその著作を理解するために読者にとって必要であると述べた。その上で、「ある出版社はどのような著者を抱えていて、この著者がお勧めする参考資料はこれです」と紹介していくような、情報を欲しがっている消費者に対する情報ノウハウのシンクタンク、または情報仲介業としての役割を担うべきなのではないかと提言した。
 さらに、紙に代わる新素材に対して経営資源を投入していく必要性を説き、iPodが新たなライフスタイルまでも提案したことを例に挙げ、「『本は買って読むもの』という通念を考え直す必要があるのではないか」と話した。

フォーラムでは国立国会図書館長の長尾真氏をはじめ、
有識者が活発に意見交換した
フォーラムでは国立国会図書館長の長尾真氏をはじめ、
有識者が活発に意見交換した
 また、IT企業家、ブロガーである橋本大也氏は自身が高校を中退して大検を受験することになったときに、図書館が「道しるべ」になったことに触れ、「図書館で文化を学べば、その人の人生や未来が開けるのではないか。そういう可能性を感じさせる空間としてあり続けてほしい」と話した。
 そして著者の収入が「9割になる出版モデル」が今後は必要になってくるのではないかと提案した。つまりこれまでの著者は、自分の本を出すためには出版業界の流通面に頼る必要があったが、今はインターネットやブログというものが登場して情報を発信するチャンネルがある。そのため、今後は流通に頼らなくても売れる本が出てくる可能性があるため、従来の出版モデルも見直す必要があるのではないかといった考えによるものだ。

 各自講演の後に行われたパネルディスカッションでは活発な意見が交わされた。長尾氏は紙の値段や印刷費用の面から、書物の電子化によって出版におけるコスト削減を考えていかなければならないとした。また、慶應義塾大学の金正勲准教授は韓国を例に挙げ、国家中央図書館や国家図書館などの機関が参加して設立された国家電子図書館では、利用者が多様なデータベースを共同利用して総合検索ができる点について触れた。そして国際的な動きに対応するためにも、日本でも電子図書館について政策的な判断で取り組んだ方がいいのではないか、と長期的な視点から指摘した。

 今回のフォーラムでは実際に出版業界の企業の関係者ではなく、著作を持ちインターネットの技術的な面にも明るい講演者を呼んで、図書館の出版業界の将来について話し合ったことが稀有だった。今後についても、今回のフォーラムように、書籍や図書館の未来について有識者が定期的に話し合うことで有意義な提案が出てくることを期待したい。


※この講演とセキュリティプラットフォームは一切関係ありません。



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