「ワイヤレスジャパン2009」が開催:イベント・セミナーレポート:HH News & Reports:ハミングヘッズ

ITをもっと身近に。新しい形のネットメディア

- Home > コラム > イベント・セミナーレポート > 「ワイヤレスジャパン2009」が開催
 コラムトップページ
 インタビュー記事 ▼
 イベント・セミナーレポート ▼
公認会計士松澤大之
内部統制で変革すべき
は“個人の意識”
(動画あり)

セミナーレポート
「ワイヤレスジャパン2009」が開催

目次
  1. モバイルライフイノベーション
  2. ユビキタス医療・遠隔医療

 最先端の無線通信技術・サービスが一堂に会する「ワイヤレスジャパン2009」が、2009年7月22~24日の3日間に渡り東京ビッグサイトで開催。各研究機関や携帯電話キャリアなどが展示ブースを構える一方、同会場では3日間で計24もの講演会が実施され、最新技術やサービスについて、各業界の有識者から今後の展望などが語られた。

モバイルライフイノベーション

 7月24日に開催された「モバイルライフイノベーションフォーラム」では、ユーザの嗜好や行動パターンなど生活全般の情報を記録・活用する“ライフログ”に関し、モバイル端末を中心として数多くの事例とともにその展望が語られた。

 近年急速に進化しているインターネット広告の世界では、いかにしてユーザの嗜好や行動履歴を分析し、ユーザに対し的確な広告や商品情報を配信していけるかが非常に重要視されている。ライフログはそうした流れの中で、主に広告やマーケティング、レコメンデーション*1を行うのに有効な手段として今注目を集めており、通信キャリアやインターネット通販を行う企業を中心として積極的に実証実験が進められている。

ソーシャルメディアにおけるライフログ実現の可能性を語る亀津敦氏
ソーシャルメディアにおけるライフログ実現の可能性を語る亀津敦氏
 野村総合研究所情報技術本部の亀津敦氏は、日本のmixiや米Facebookに代表されるソーシャルメディアでオープン化が急速に進行し、ソーシャルメディア間でIDやデータが共用可能になり始めていることを指摘。「これまで個々に分散していたユーザのIDやデータ、体験が徐々に1か所へ収れんし蓄積されていくことで、ライフログが実現可能になる」とした。

 だが現在のソーシャルメディアは、使用する時間や場所が限定されるPCでの利用を前提にしているものが多く、現状のままではライフログを十分に取得するのは難しい。その解決策として亀津氏は「常にユーザの一番近くにあるという携帯電話の強みをフル活用すべき」と述べ、携帯電話のGPSとスケジュール機能を活用し行動ログを自動送信、さらに別のソーシャルメディアへ自動転送する事例を紹介しながら、携帯電話をソーシャルメディアのフロントエンドに位置付けることを提言している。

 しかしながら、ライフログの実用化にあたっては、まず個人情報保護法による“目的外利用の禁止”に抵触するため、サービスを提供する企業などはユーザからライフログの利用承諾を得なければならない。しかも、特にライフログへの関心が低いユーザからは、プライバシーが自分の知らないところで見られ、利用されていると懸念される傾向が非常に強い。

 ITジャーナリストの佐々木俊尚氏は、そうした現状を踏まえた上で、「確かにプライバシーの問題などいくつかハードルはあるが、ライフログにはそれ以上の非常に高い利便性が、企業側だけではなくユーザ側にもある。これからの人間社会にとって必要な分野であることは間違いない」と力説する。

ユーザの立場からライフログの現状と問題点、メリットを説く佐々木俊尚氏
ユーザの立場からライフログの現状と問題点、メリットを説く佐々木俊尚氏
 その具体例として佐々木氏は、2009年7月に政府が策定した「i-Japan戦略2015」において重点目標に掲げられているワンストップのオンライン行政サービス「国民電子私書箱」と、個人の生涯を通じて用いられる医療記録「日本版EHR(Electronic Health Record)*2」に言及した。

 同氏はユーザ側のメリットとして、これまでバラバラに管理されていたデータがひも付けされることで、手続きやサービス上の手間が劇的に簡略化されること、自分自身の情報を本人が一元的に確認できるようになることなどを挙げている。それと同時に「国の中長期的な政策においてもライフログが中核的な概念として位置付けられている」と語り、ライフログ実用化に向けた取り組みの重要性を強調した。

ユビキタス医療・遠隔医療

 同日には「無線を利用したユビキタス医療・遠隔医療」についても講演が行われた。実際に医療現場に立つ勤務医や、医療情報化に関する研究者・有識者が集い「ユビキタス医療」「遠隔医療」の必要性について訴えた。

 地方の医師引き上げ、また診療報酬を引き下げための「入院日数削減」と「自宅療養推進」による医師側は診療報酬減額と、各患者宅までの訪問診療など、医師の負担増大は地域の医師離れを加速させ、残った医師への負担増となる負のスパイラルを招いている。その結果、いわゆる「地域医療の崩壊」を深刻化させている。

医療情報化による医療支援の一環としての遠隔医療について語る村瀬氏
医療情報化による医療支援の一環としての遠隔医療について語る村瀬氏
 日本遠隔医療学会前会長の村瀬澄夫氏は「地域医療を立て直すためには、遠隔医療が必要である」と語る。地域医療の支援策として、遠隔医療が普及していけば、このような問題点を大幅に改善できるからだ。

 例えば、インターネットを経由したDtoP(Doctor to Patient)の医療行為が行われれば、在宅訪問による移動時間は完全に省略できる。また、地域診療所の医師が専門医に相談したり、救急現場にいる救命士の医療行為を遠隔から助言するなどのDtoD(Doctor to Doctor)という利用方法も、すでに一部で実用化が進んでいる。

 そして遠隔医療普及のためには生涯にわたった電子的な医療・健康記録「EHR」も必須だ。在宅診療や専門医への相談、あるいは救急現場による受け入れを行うには、物理的に1ヶ所にしか存在しない紙のカルテでは限界がある。電子的な健康記録である「EHR」であれば、専門医への相談も、救急の現場でも、病歴や健康状態といった患者情報を瞬時に把握できる。

 このような遠隔医療やEHRといった医療の現場におけるIT導入は、2009年に政府が打ち出した「3ヶ年緊急プラン*3」に記載されている。また総務省が推進する「ユビキタス特区」においても、モバイル端末を使った地域医療情報圏の構築が盛り込まれている。ところが現時点での遠隔医療の病院おける普及率は10%程度であり、村瀬氏は「これから普及するためにはいくつかの課題がある」と指摘した。

 すでに大規模なITシステムを導入している病院は、もともとITに明るい医師が積極的に導入したケースが多い。ところが今後はITに特に関心のない層や、苦手な層にまで普及させていく必要がある。特に定年のない医師には「高齢化」の波が直接押し寄せてきており、啓発は容易ではない。

 村瀬氏は「遠隔医療導入について医師側が不安に感じていることは、診療報酬がきっちり得られるかということよりも、企業などのサポートといった指導・支援体制があるのかということへの不安が一番大きい」と話す。他の医療機器などであれば、使用方法はメーカーが懇切丁寧に説明をするが、同程度のサポートが遠隔医療にも求められていると語り、医療メーカー側にも協力を呼びかけた。

パネルディスカッションでは、村瀬氏をコーディネーターに据え、東京電機大学教授、メディアセンター長の安田浩氏など、産学有識者が集まり議論を交わした
パネルディスカッションでは、村瀬氏をコーディネーターに据え、東京電機大学教授、メディアセンター長の安田浩氏など、産学有識者が集まり議論を交わした
 講演の最後に行われたパネルディスカッションでは、東京医科歯科大学情報医科学センター長の田中博氏が「3ヶ年緊急プラン」について触れ「政府が医療の情報化にこれだけ本腰を入れることはなかなかない。だからこそ、この3ヶ年で情報化を一挙に進めたい」と力説し、遠隔医療を含む、医療情報化の緊急性を訴えた。

 無線通信技術を活用したライフログは、健康・医療に限らず、幅広い分野で利用されつつある。現代日本に漂う停滞感を打破する1つの契機として、これら新技術の実用化・普及に期待したい。


※この講演とセキュリティプラットフォームは一切関係ありません。




注釈

*1:レコメンデーション
recommendation。原義は「推薦」。あるユーザが持つ過去の購買・行動履歴と、同様のパターンを持つ別のユーザの履歴とを照合することで、ユーザの嗜好や行動パターンを分析・予測し、それに適合する商品・サービスを薦める技術。代表例はAmazon.co.jpの「おすすめ商品機能」など。

*2:EHR(Electronic Health Record)
電子的健康記録。1個人の医療・健康記録を生涯にわたって電子的に記録する。紙のカルテと異なり、ネットに接続できる環境ならばいつでも見ることができるため、救急医療や、地域の複数病院にわたる治療などに応用できる。すでに実施している国もあるが、日本では厚生労働省などにより、レセプト(医療報酬請求書)と定期的な健康診断の記録を集めた「日本版EHR」が計画されている。

*3:3ヶ年緊急プラン
2009年3月にIT戦略本部(本部長:麻生総理)が打ち出したIT関連の政府戦略。主な内容として「デジタル特区の3大プロジェクト(“電子政府・電子自治体”“医療”“教育・人財”の3つ)」「新産業の育成」「デジタル基盤整備」の3つが挙げられている。


お問い合わせ

  コラムトップページへ▲