RIETI政策シンポジウム「世界経済危機下のイノベーション」が開催:イベント・セミナーレポート:HH News & Reports:ハミングヘッズ

ITをもっと身近に。新しい形のネットメディア

- Home > コラム > イベント・セミナーレポート > RIETI政策シンポジウム「世界経済危機下のイノベーション」が開催
 コラムトップページ
 インタビュー記事 ▼
 イベント・セミナーレポート ▼
公認会計士松澤大之
内部統制で変革すべき
は“個人の意識”
(動画あり)

セミナーレポート
RIETI政策シンポジウム「世界経済危機下のイノベーション」が開催

 中長期的かつ世界的な視点から経済政策の研究・提言を行う経済産業省所管の独立行政法人、経済産業研究所(RIETI)は2009年7月2日、政策シンポジウム「世界経済危機下のイノベーション -能力構築と制度改革のあり方-」を、経済産業省庁舎内のRIETI国際セミナー室で開催した。

RIETI国際セミナー室は100人超の参加者で埋め尽くされた
RIETI国際セミナー室は100人超の参加者で埋め尽くされた
 「革新」を意味する「イノベーション」(innovation)は、単に技術の革新だけを指す言葉ではない。経済成長を実現するための新しい技術やビジネスモデル、産官学連携の姿なども含めた、社会的プロセス全体の革新を表している。

 今回のシンポジウムには、各分野でイノベーションの研究・実現に取り組んでいる研究者やエンジニアが集結。この世界経済危機下において、いかにイノベーションを起こし今後の日本経済を成長させるべきか、またそのためにどう制度改革を行い企業の能力を高めるべきか、熱い議論が交わされた。

 基調講演ではまず、RIETI研究主幹兼ファカルティフェローで一橋大学イノベーション研究センター教授でもある長岡貞男氏が、世界経済危機がもたらすイノベーションへの影響について言及。「現今の世界経済危機下では、過去の実績でみられるようにGDPの縮小幅に比例して、あるいはそれ以上にイノベーションへの投資額が縮小する危険性がある」と警鐘を鳴らす。

 その一方で、イノベーションを短期的なカンフル剤ではなく、むしろ長期的に効果を発揮するものと定義。「継続的なイノベーションへの投資が長期的に景気回復を助け経済成長を促す」と説いた。

継続的にイノベーションへ投資することの重要性を説く長岡貞男氏
継続的にイノベーションへ投資することの重要性を説く長岡貞男氏
 さらに同氏は、日米の科学技術分野の発明者に関する、RIETIによる比較調査(「日米発明者サーベイ」)の結果を報告した。

 それによれば、博士号取得者は米国の約45%に対し日本は10%程度と少ない。しかも米国の発明者は50歳代でも発明を続けるが、日本では多くが40歳代前半で発明から離れるため、日本の企業内では人的能力の蓄積が行われにくい。

 また、海外在住の発明者と共同で研究開発を行う割合が、米国では1980年代の3%から2000年代には12%へ上昇しているが、日本は1980~2000年代を通じて3%以下の水準に留まっているという。

 これらの結果を通じ長岡氏は、科学技術分野のイノベーションを担う人材の育成強化とそのための制度改革、研究開発の国際的なコラボレーションを産官学が連携して進めていくことの重要性を強く訴えている。

 続いて講演した東京大学ものづくり経営研究センター長の藤本隆宏教授は、日本のものづくりについて分析。得意分野はPCに代表されるモジュラー(組み合わせ)型の製品ではなく、自動車やゲームソフトなど厳しい制約条件の中でチームを組み、難易度の高い設計を行う“擦り合わせ設計”“作り込み生産”の製品にあると位置付けた。

日本のものづくりが持つ強みに基づいた“設計立国”を提唱する藤本隆宏氏
日本のものづくりが持つ強みに基づいた“設計立国”を提唱する藤本隆宏氏
 同時に、設計を起点とし購買・生産・販売に至るものづくりの現場において、付加価値の源泉となる設計情報の流れが統合的に構築されておらず、人材育成という面でも、ベテランから若手へ技術を継承する体制が整っていない傾向にあることを問題提起。世界経済危機脱出後もものづくりの現場を鍛え、「難しい設計は日本に任せよう」という評価を世界中から得ることで、高い生活水準を維持するという“設計立国”とその支援を提唱した。

 最後の基調講演では、RIETIファカルティフェローで一橋大学イノベーション研究センター教授の中馬宏之氏が、半導体産業のようなサイエンス型産業における日本企業の影響力低下について分析。技術の進化や市場・技術の複雑性が増大する速度に適応できていないことを、その原因の1つとして挙げた。

 また、半導体研究におけるコラボレーションの状況については、「日本は世界4極の1極を占めている半面、知識のスピールオーバー(広がり、伝播)の点では、日本人研究者の影響力は米国研究者に遥かにに及ばない。情報の伝達範囲(共同研究者のネットワークで評価した範囲)がほとんど日本の中に留まり、日本だけの孤立した情報ネットワークが形成されている」と指摘している。

コラボレーションのネットワーク拡大を提唱する中馬宏之氏
コラボレーションのネットワーク拡大を提唱する中馬宏之氏
 後半のパネルディスカッションでは、日本のイノベーションシステムが持つ強みと弱み、そして今後目指すべきイノベーションの方向性について議論された。冒頭では産業界におけるイノベーションの具体例として、三菱自動車工業MiEV事業統括室長の橋本徹氏が登壇。世界的に低迷が続く自動車業界でいち早く1000台超規模の量産化に漕ぎ着け、2010年4月からは日本で個人向け販売も予定している電気自動車「i-MiEV(アイ・ミーブ)」誕生の経緯が説明された。

 これを受けて長岡氏は、「日本企業の多くは今回の金融危機後も、研究開発への投資を自助努力で、強い意志で持続している。それは三菱自動車工業のi-MiEV開発がそうであるように、世界の環境や資源の課題を先取りした研究を行っているという面でも、米国等の自動車産業と比べて大きな強みになるだろう」とコメントしている。

 一方で藤本氏は、「新しい産業を生みだす大きなイノベーションも大事だが、例えば自動車の組み立て現場で部品箱を2m動かして歩行距離を減らしたり、スーパーマーケットでパートの女性が3時と4時とで魚の陳列の仕方を変える、これも立派なイノベーション。こうした細かな“草の根イノベーション”を数多く起こしていけば、大規模な産業をいくつか起こすよりも大きな経済効果を発揮するだろう」と主張した。

日本のイノベーションのあり方について熱い議論が交わされた
日本のイノベーションのあり方に関し熱い議論が交わされた
 昨今の世界経済危機により、日本の実体経済にも閉塞感が漂い続ける中、それを打破する決定打としてイノベーションの創出が急務となっている。そのため日本の研究開発やものづくりの現場では、知識と人材のグローバルな連携が今まさに求められているということを、参加者に強く認識させるシンポジウムとなった。

経済産業研究所(RIETI)のホームページはこちら

「RIETI政策シンポジウム『大規模業務データから何を学ぶか』が開催」セミナーレポートはこちら

「RIETIワークショップ『インセンティブ構造としての企業法』が開催」セミナーレポートはこちら



※この講演とセキュリティプラットフォームは一切関係ありません。



お問い合わせ

  コラムトップページへ▲