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伊藤嘉博氏が「品質コストマネジメントの活用」について講演

 「大不況の中、世間ではコスト削減の嵐が吹き荒れています。では製品の品質を低下させても構わないのか、そんなことはありません。こういう時代だからこそ、ものづくりの原点に立ち戻り、品質を向上させなければならないのです」  早稲田大学商学学術院教授の伊藤嘉博氏は、120人超の聴講者に熱く語った。


 「その一方で、やはり企業経営においては利益追求の観点から効率性や効果性が求められます。品質を極限まで向上させると同時に、コストをいかに上手く管理していくのかということ、つまり『品質コストマネジメント』が、今以上に求められている時代は他にはありません――」

品質管理・品質保証担当者を中心とした聴講者で、講演会場はほぼ満席となった
品質管理・品質保証担当者を中心とした聴講者で、講演会場はほぼ満席となった
 財団法人 日本科学技術連盟(以下、日科技連)は2009年4月14日、文部科学省主催による第50回「科学技術週間」への協賛行事として、特別講演会「最小のコストで最高の品質を実現する -品質コストマネジメントの活用-」を、東京都・千駄ヶ谷の日科技連本部で開催した。
 今回の講演会には、日本における品質コストマネジメント研究の第一人者として知られる伊藤嘉博氏が登壇。品質コストの基本的概念やマネジメント手法、そして世界同時不況下の現在における品質コストマネジメントの意義について講演を行った。なお伊藤氏は、2009年11月に開催されるキャンペーン「第50回品質月間」のテキストに、今回の講演内容を執筆・紹介する予定だ。

 同氏はまず、「PAF法」(Prevention-Appraisal-Failure Approach)と呼ばれる品質コストの基本的分類を紹介。PAF法では品質コストの構成要素として、

●「予防コスト」:品質上の欠陥が発生するのを早い段階から防止するための原価
 (例:品質管理、工程管理、品質計画、品質訓練など)
●「評価コスト」:製品や部品の品質を評価して品質レベルを維持するための原価
 (例:購入材料の受入検査、製品検査、出荷前の再試験・再検査、納入先での試験など)
●「内部失敗コスト」:品質不良が製品出荷前に発見された場合の処理に関する損失
 (例:スクラップ、再作業、材料の調達、工場との技術的交渉など)
●「外部失敗コスト」:品質問題が市場で発生した場合の対応・処理に関する損失
 (例:苦情処理、製品サービス、製品リコールなど)

 の4つに区分されることを説明した。
 同時に、予防コストと評価コストは利益を生み出すための経費=原価、内部失敗コストと外部失敗コストは利益に何ら結び付かない支出=損失と定義。そのうえで伊藤氏は「原価を100万円減らしても、その結果品質が低下するなら、利益が100万円増えるということにはならない。だが損失を100万円減らすと、利益がそのまま100万円増えることになる」とし、予防・評価コストの削減が品質や利益に及ぼす影響と、予防・評価コストではなく内部・外部失敗コストを削減することの重要性を指摘した。

「品質の最大化と品質コストの最小化は両立する」と語る伊藤嘉博氏
「品質の最大化と品質コストの最小化は両立する」と語る伊藤嘉博氏
 また、同氏は日本における品質コストマネジメントへの一般的認識についても言及している。
 まず「品質コストマネジメントで最も重視して管理すべき項目は、失敗コストである」とする認識について、「欠陥発生による廃棄処分やリコールなどの失敗コストはできるだけ最小化したいものであるが、失敗コストはあくまでも品質管理の良し悪しの結果であり、直接減らせるものではない。結果である失敗コストを削減するためには、失敗コストの原因となる欠陥の発生そのものから最初に予防しなければならない」と語り、最重視して管理すべきは予防コストであると位置付けた。
 また「品質の最大化と品質コストの最小化は矛盾する」という誤解に対しては、「品質を向上させるためには、確かに予防・評価コストを増大させなければならない。だが欠陥の発生件数も確実に減るため失敗コスト、何よりリコールなど多額の損失が発生し顧客離れの遠因ともなる外部失敗コストを、予防・評価コストの増大分を補って余りあるほど削減することができる」とし、品質の最大化と品質コストの最小化が両立することを強調している。

 では実際には、品質コストマネジメントをどのように行うべきなのだろうか。
 品質コストを測定・分類するには、まず情報システムの構築が必要となる。その際に最も重要なのは「品質コストを測定する経営者の目的に合致していること」であると、伊藤氏は断言する。
 例えば、組織の構成員全員に対する品質への注意喚起が品質コスト測定の主目的となる場合、下図の通りデータの正確性や精度よりも、品質管理・品質保証部門だけではなく営業や法務などあらゆる部門から品質コストの項目を掘り出す網羅性、そして最低月1回の継続的なデータ集計こそが重要となる。

品質コスト測定の主目的によって、構築する情報システムに必要な基本特性は異なる
品質コスト測定の主目的によって、構築する情報システムに必要な基本特性は異なる (クリックすると拡大します)
 そして「測定した品質コストを4種類に分類したら、そこで終わりではない。今度は分析をし、混乱を与えないようにその結果の内、最も重要なポイントだけを、品質改善の担い手へ伝えなければならない」と付け加えた。
 また品質コストの分析手法として、国内企業と共同考案した「品質コストマトリックス」を例示。品質改善プロジェクトの立案や予算配分、さらには予算と実績との差異分析によるフィードバック情報の提供まで可能とした、品質コストマトリックスの具体的な活用方法を、誕生の経緯や実際の導入事例を交えながら詳細に解説した。

 最後に、正確な損失額の測定が困難な「隠れた品質コスト」の存在に言及。その多くは品質問題を放置する、顧客ニーズを製品品質に反映できないなどの結果、5~10年の長期に渡り顧客が離れてしまう「機会損失」であるとした。
 その上で、「正確な損失額の測定は決して望めないが、一部でも可視化することで、その対応策を予防・評価コストの項目として設定し、機会損失を減らすことは十分に可能だ。その削減効果は単に利益だけではなく、ブランドイメージを高め顧客を味方にするという意味でも極めて大きい。
 すでに欧米の企業は、最重要視して機会損失の削減に取り組んでいる。だが日本では、今までほとんどの企業が見逃してきた。だからこそ、この機会損失の最小化にぜひ取り組んで欲しい」と、伊藤氏は訴えている。

 未曾有の不景気を乗り切るために、あらゆる角度からのコスト削減が強く求められている現在、安易な品質低下に走ったために、かえって得るべき利益を逸し、社会的信用まで失った企業は枚挙に暇がない。しかし品質コストマネジメントを取り入れることで、品質向上により失敗コストを削減しトータルの品質コストを下げるに留まらず、顧客が求める品質へのニーズを満たすことで、売上と利益を高めることが可能となる。
 米国で1950年代に誕生したこの管理会計の概念が、日本において今、企業の側だけではなく品質を求める顧客の側からも、必要とされつつあることを強く実感させる講演会となった。


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伊藤嘉博氏に尋ねた「品質コストと虚偽表示」(2014/1/6)

伊藤嘉博氏 よくわかる品質コストマネジメント

第1回 いまなぜ品質コストなのか(2011/3/22)

第2回 品質コスト活用の勘どころ(2011/4/11)

第3回 隠れた品質コストを「見える化」する(2011/5/16)

伊藤嘉博氏「品質向上とコスト削減を両立させる『品質コストマネジメント』とは」インタビュー記事はこちら



※この講演とセキュリティプラットフォームは一切関係ありません。



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