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境真良氏が「放送と通信の融合とは何だったのか」について講演

 コンテンツ分野の諸問題について学術的研究を行っているコンテンツ学会*1は2009年3月30日、慶應義塾大学三田キャンパスで、講演「放送と通信の融合とは何だったのか」を開催した。同講演は、早稲田大学大学院の国際情報通信研究科で、客員准教授を務めていた境真良(さかいまさよし)氏が、経済産業省に戻ることをきっかけとして行ったものだ。


 アニメ、漫画といった日本のコンテンツ産業は、世界でも認められる強力な産業の1つだ。しかしインターネットの発達により、放送したコンテンツが違法に配信されたり、漫画がデジタルデータとして無断で複製されるなどの問題が生じる一方、インフラの1つとしてすでに大きく普及しているインターネットの利用を避ける選択肢は存在していないに等しい。
 そして、NHKオンデマンドのように放送局がすでにインターネット配信を行う一方で、YouTubeなどでは個人が放送局の許可を得ないまま放送されたコンテンツを掲載して問題となるなど、放送と通信の融合に向けた整備は必要不可欠でありながら、複雑な面もあり、多くの課題を抱えている。コンテンツ学会では、このような課題の解決に向けて多くの提言を行ってきたが、境氏は「まずコンテンツ産業について理解するためには、コンテンツと資本の関係を理解することが重要」と指摘する。

 メディア産業から発信されたコンテンツが、それに接した投資家の「この産業の成長に賭けたい」という意欲につながる。そして投資によりコンテンツ制作の技術力が向上することで、さらなる投資を生む…というサイクルにより、コンテンツは生み出されている。
 しかし「ワンソースマルチユース」と言われるように、1つのコンテンツを様々なメディアで展開することで、ようやく投下資金を回収しているのがコンテンツ業界の厳しい現実だ。

コンテンツ業界の現状について語る境真良氏
コンテンツ業界の現状について語る境真良氏
 こういったコンテンツ業界の現状について説明した上で境氏は、これまでコンテンツ流通メディアをけん引してきた“放送”と、今後、インフラの中心となる可能性のある“通信”の融合へと話を進めた。

 同氏はまず、融合について「事業者階層、制度階層、インフラ階層、コンテンツ階層からなる、4階層の融合が考えられる」と語る。
 事業者階層では通信事業者と放送事業者との資本提携、制度階層では知的財産の権利整理、インフラ階層ではCATVやIPTV、コンテンツ階層ではすでにTVで放映されたコンテンツを、インターネットでもう1度放映する…、といったことが、放送と通信の融合として挙げられている。

 しかし「インフラ階層での融合は順調に進んできているが、他の階層では必ずしも順調に進んでいるとはいえない」と同氏は指摘する。確かにアクトビラ(acTVila)*2やYouTubeのように、複数階層において放送と通信が融合し、ビジネスが実際に成立した例が一部にはあるものの、現実問題として放送と通信の融合は遅々として進んでいない。

テレビ局関係者、コンテンツ制作者、大学教授をはじめコンテンツ産業に関わる人達が参加した。
テレビ局関係者、コンテンツ制作者、大学教授をはじめ
コンテンツ産業に関わる人達が参加した。
 特に制度階層においては問題が山積みであり、デジタル環境での融合によるコンテンツの流通形態と、クリエイターの創作意欲に与える大きな影響に対応しきれていない。
 例えば、かつてCDなどのパッケージを買うという行為には、「私的な範囲内であればコンテンツを自由に使ってもよい」という対価が暗黙の了解として含まれていた。しかし、PCが登場し、ゲームを購入してインストールするという完全な複製が行われるようになると、「1枚につき1台、インストールしてよい」という規定を設けざるを得なくなる。しかし購入者にとっては、これまでと同じ額を払っているにも関わらず、今まで許されていた行為が制限されるのだから、受け入れ難いだろう。

 このように「 “視聴してよい”というライセンスを購入した」という「視聴主義」と、「著作権法内で許可された“私的に複製する権利”を購入した」という「複製主義」との相違が発生している。
 インターネットの出現により、コンテンツはさらに複製されやすくなっており、「視聴主義」と「複製主義」をどう捉えていくべきか、放送と通信の融合に際して法制度をどのように整えていくべきなのか、といった議論が重要かつ急務になる。

 そこで境氏は、2009年3月23日に行われたコンテンツ学会で「ネット調整制度に関する民間審議会」での提言に触れ、放送と通信の融合政策に1つの方向性を示した。
 例えば新しい知的財産権への解決論を盛り込む必要性や、著作権の交渉の余地を設けるための独自の登録制度、放送事業者へのコンテンツ解放の義務付けといった項目を設けることで、著作権関連の問題解決を図っている。
 境氏は「放送と通信の融合によって新しい制度を構築するということは、国にとって、放送と通信との関係性を再整理していくための契機となるのではないか」と話し、国が先頭に立って改革する必要性を強調した。

 今回の講演では、境氏がコンテンツ業界の好調、不調といった現状やコンテンツがどのように資本に関係していくかといった仕組みを解説して、通信と放送の融合の前に存在する様々な障壁を説明した上で、知的財産権の解決論など具体的な提案を、わかりやすく例示したことに、大きな意味があった。今後も境氏の経済産業省での活躍と、コンテンツ学会の活動の充実を期待するとともに、コンテンツ業界の動きや通信と放送の融合の流れにも注目していきたい。


※この講演とセキュリティプラットフォームは一切関係ありません。



注釈

*1:コンテンツ学会
映画、アニメ、漫画といったコンテンツ分野を総合的に取り扱う新しい学会。コンテンツ分野の諸問題に関する学術的研究の推進や人材育成に加え、表現の創出、技術の開発、ビジネスモデルの設計、政策の立案等を通じて、創造社会の実現に資することを目的としている。

*2:アクトビラ(acTVila)
インターネットのブロードバンド接続を利用して、対応するデジタルテレビ向けに情報コンテンツや動画コンテンツを有料配信するポータルサービスの名称。2007年9月より株式会社アクトビラ(旧社名・テレビポータルサービス。2007年9月1日より現社名)が動画コンテンツの配信サービスを開始している。



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