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公認会計士松澤大之
内部統制で変革すべき
は“個人の意識”
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「平成20年度 医療ICTシンポジウム」が開催

 横浜国立大学グローバルCOE*1プログラムは「平成20年度 医療ICTシンポジウム」を開催した。


河野隆二教授は医工融合による新たな可能性について語った
河野隆二教授は医工融合による新たな可能性について語った
 「グローバルCOEプログラム」は、日本の大学院の教育研究機能を一層充実・強化し、世界をリードするような人材の育成を図るため、優れた教育研究拠点の形成を重点的に支援し、国際的にも競争力のある大学を育成することを目的としている事業だ。
 その中でも、横浜国立大学を拠点とするグローバルCOEプログラム「情報通信による医工融合イノベーション創生」は、横浜市立大学、情報通信研究機構(NICT)、フィンランドのオウル大学との連携を図り、国際的な研究をしている。
 オウル大学は、フィンランドでも屈指の規模の研究機関を持つ大学。また大学のあるオウル市そのものがハイテク企業の集合都市となっており、市内では無線分野での世界最先端の研究が行われている。ネットワークなどの仮想空間と、人間がいる現実空間を結ぶ必要があるユビキタス医療IT*2に無線技術は必要であり、この連携の意義は大きい。
 現時点での医療の情報は、現実空間にいる人間のデータを医者がPCからレセプトや電子カルテに入力することで仮想空間につなげている。しかしこれでは医者に負担をかける可能性も高く、情報のロスも大きい。
 横浜国立大学グローバルCOE拠点リーダの河野隆二教授は、体の内部および周辺における情報通信ネットワークBAN(Body Area Network)の構築を提唱。BANを利用すれば、生体から直接、仮想空間にデータを転送できる。また、その逆に外部から生体内の医療機器(インプラント医療機器)のコントロールもできる。さらには「無線技術などの工学の先端的な技術を医学に導入することにより、『ユビキタス医療IT』が実現すれば、地域格差解消、少子高齢化といった社会問題も解決できる」(同教授)とした。

医学・工学の分野から識者が集まった医学・工学の分野から識者が集まった
 またシンポジウムでは、無線技術以外にも医療と工学の融合による革新的技術の登場を示す実例が挙げられた。
 横浜国立大学大学院工学研究院の竹村泰司教授は、がん細胞が42.5℃を超えると殺傷できることに注目した、「がんの温熱治療」について説明した。がん細胞が特定の温度で死滅すること自体は知られていることではあるが、これまでは体内の特定の場所を選択的に加熱する方法に課題があった。
 ところが磁場に反応する小型部品を体内に入れた患者に「MRI」*3を使用すると、MRIが発する電磁波と部品が共鳴を起こすことで、部分的な加熱が可能であり、試料による実験確認をしてきた。開腹手術や抗がん剤などを用いた従来の治療に比べて、患者に対する負担が極端に小さいことが特徴だ。ただし、小型部品を血管経由でがん組織まで運ぶためには数ミリの大きさまで縮小化する必要があり、そこに工学的な課題がある。医学との融合により、実現に向けて問題を解決していきたいとした。
 ほかにも、同大学大学院環境情報研究院の長尾智晴教授が、機械・PCで知的な仕事を処理する「知能情報処理」を提案。診断画像の解析や検出などをPCで自動的に行う医療支援や、飲み込むだけで体内の約1万枚もの画像を撮影するカプセルサイズの内視鏡のデータ処理、ユビキタス医療IT技術による24時間生体データ監視など、工学と融合し、医療に応用する具体例が紹介された。

医工融合のための人材育成について議論が白熱した
医工融合のための人材育成について議論が白熱した
 そして、このような「医工学」研究を継続的に行うための人材育成についても、産官学から識者を招き議題に上げた。
 「医学」と「工学」という、まったく異なる二分野をマスターした人材を育成するには、分野そのものが壁となる。同大学大学院工学研究院の濱上知樹教授は、横浜国立大学が開設する「ダブルディグリー」制度について解説した。ダブルディグリー制度とは、医学に興味のある工学生や、工学にも造詣のある医学生などに向けて、2つの博士号を通常よりも短い期間で取得できるための制度。この制度により「もう一方の分野への移行が容易になり、学生らが医工学を学ぶ機会も増えるのでは」と述べた。

 研究者は他分野に興味がなく、自らの専門分野をひたすら掘り下げているという印象がある。しかしその印象や分野間の壁を超えて、人間の生活の便益に大きく関わる「医学」「工学」が融合することで生み出される新たなイノベーションに、強い可能性を感じた。


※この講演とセキュリティプラットフォームは一切関係ありません。



注釈

*1:COE
卓越した研究拠点:Center Of Excellenceの略

*2:ユビキタス医療IT
ユビキタス(ubiquitous)とは、存在することを特に意識させずに、いつでも、どこにでもいるという意味。ユビキタス医療ITとは、ワイヤレスネットワークなどの技術を使い、有線ではカバーしきれないような、例えば生活圏における健康管理などまでIT化された医療のことを呼ぶ。

*3:MRI
核磁気共鳴画像法のこと。生体内の原子と磁気の相互作用を利用して、人間の断層画像を連続的に撮影する医療機器。



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