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公認会計士松澤大之
内部統制で変革すべき
は“個人の意識”
(動画あり)

「ソフトウェア業界向け 工事進行基準 直前対策セミナー」が開催

 2009年2月18日、日本IT会計士連盟(略称:ITCPA)は「まだ間に合う! ソフトウェア業界向け 工事進行基準 直前対策セミナー」を開催した。


 「工事進行基準」とは、2009年4月以降に始まる事業年度から、ソフトウェア業界においてはソフトウェア受注制作など、原則すべての工事契約*1に対し、適用が義務づけられる会計基準。適用開始が目前に迫るなか、その対応に苦慮しているソフトウェアメーカーおよびユーザ企業も少なくない。

工事進行基準の実践的対応策を学ぶ受講者
工事進行基準の実践的対応策を学ぶ受講者
 日本IT会計士連盟は、ITに精通した公認会計士10名が集結し、会計およびIT、もしくは両者を結びつけた実践的なノウハウを中立的な立場から発信すべく、2009年2月に設立されたばかりのNPO法人。
 代表理事の坂尾栄治氏が壇上に立った今回のセミナーには、工事進行基準の具体的かつ実践的な対応策を学ぼうと、ソフトウェア業界の経理担当者を中心とした受講者が詰めかけ、会場内は終始その熱気で満ち溢れていた。

 坂尾氏はまず「工事進行基準」と、従来から用いられている「工事完成基準」との違いについて言及した。「工事完成基準では、工事が完成しユーザ企業に引き渡された時点で収益と原価の総額を計上するが、工事進行基準では決算期ごとに工事の進捗度を見積もり、それに応じて収益と原価を計上する」と説明。
 また工事進行基準の特徴として、「決算期ごとに売上を計上、認識することが可能で、それに伴い工事の開発要件や工期、価格などの見積精度を向上させることもできる。逆にデメリットとしては、事務作業が煩雑になり、見積作成や進捗度測定などで担当者の恣意的判断が入る可能性がある」と述べた。

工事進行基準と工事完成基準との違い
工事進行基準と工事完成基準との違い
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 なお、工事進行基準適用の背景には、会計基準そのものを日本独自のものから国際会計基準*2へ徐々にコンバージェンス(収れん)させていくという、日本全体の基本方針が存在する。その一環として、工事契約に関する会計基準も、国際会計基準に準拠した工事進行基準へ移行していくのだという。
 工事進行基準の原則全面適用がもたらすメリットとして坂尾氏は、従来は2つの同様な工事契約に対し工事進行基準と工事完成基準を選択して適用できたものが、今後は工事進行基準に統一されるため、企業間で財務諸表を比較するのが容易になることを挙げた。

 また工事進行基準を適用するうえで、ソフトウェア業界が抱える特有の問題として、坂尾氏は「建築物の場合、たとえば50階建てのビルが48階までできあがっているのに、工事は全体の10%しか進んでいない…というのは見た目で嘘とわかる。だが、ソフトウェアは外から見ても、その開発が何割進んでいるかが全く目に見えない」と指摘。
 さらに「工事の途中で仕様変更を行おうとしても、建築物なら『鉄骨があと何本必要になるので仕様変更できない』と言える。しかし、ソフトウェア開発はその途中で要件が具体化するケースが多く、しかも担当の開発者が『ちょっと頑張れば何とかなるか』と柔軟に判断し対応できてしまうため、仕様変更および見積の変更が頻繁に発生する」ことなどを例示している。

工事進行基準について語る坂尾栄治氏
工事進行基準について語る坂尾栄治氏
 次に、工事進行基準における会計処理の方法を指南。他の方式に比べて計算が比較的容易なうえ、建築業界ではすでに普及が進んでいるため、建築業界と同様にソフトウェア業界でも広く普及すると見られている「原価比例法*3」と、その詳細な計算方法を紹介した。
 加えて、より実際に即した会計処理のケースとして、工事途中での見積変更や税法上の処理、四半期決算への対応などについても、それぞれの具体的な処理方法を詳細に解説している。

 そして、工事進行基準導入に伴う内部統制構築やプロジェクト管理について講義。「工事進行基準に係る各業務プロセスにおいて、売上高や未収入金といった、財務報告の信頼性に影響を及ぼす勘定科目が必ず計上される。また工事の進捗度を算定する際など、担当者の恣意性が入る業務プロセスが存在するため、工事進行基準は内部統制の対象となる」と、工事進行基準と内部統制との関係性を位置づけた。
 そのうえで、坂尾氏は「工事進行基準では、四半期など決算期のタイミングで工事の進捗度を適正に把握することが不可欠だ。そのためには、最低週単位の頻度で、できる限り定量的な基準で工事の進捗度を測定でき、それらを管理者がチェックし承認可能な内部統制環境を作り上げなければならない」と語った。

業務プロセスごとの内部統制要点イメージ
業務プロセスごとの内部統制要点イメージ
(クリックすると拡大します。)
 工事進行基準を適用するためには、単に会計処理だけではなく、内部統制を含めた業務プロセス全般の見直しが必要だ。しかも進捗度という工事進行基準の要を定量化し可視化することが、ソフトウェア開発においては非常に困難な作業となる。
 だが工事進行基準を適用できれば、開発要件や工期、価格などが契約当初から明確化される。それによりソフトウェア業界の開発現場は、収益増加を伴わない理不尽な仕様変更や要件追加などから少なからず解放され、より健全な経営および労働環境を構築できる可能性が高い。
 そのために注意すべき問題は何か。また現実的な方策として、まず何ができるのか。それを具体的かつ実践的に学べるという点でも有意義なものとして、今回のセミナーは大盛況のうちに終了した。

※この講演とセキュリティプラットフォームは一切関係ありません。



注釈

*1:原則すべての工事契約
「決算をまたがない短期間の工事契約」 「工事収益総額、工事原価総額、決算日における工事進捗度を、信頼性をもって見積もることができず、成果の確実性が認められない工事契約」 には、工事進行基準ではなく工事完成基準が適用される。

*2:国際会計基準
正式には「国際財務報告基準」。International Financial Reporting Standardsの頭文字を取り「IFRS」(イファース)とも呼ばれる。2005年、EU(欧州連合)域内の全上場企業に対して強制適用された。現在では世界100カ国以上が採用しており、日本とアメリカも自国基準とのコンバージェンス(収れん)を進めている。日本やアメリカの会計基準が細かい規則と数値基準を定める「ルール主義」をベースとしているのに対し、国際財務報告基準は原理原則だけを示す「原則主義」に基づき作成されている。

*3:原価比例法
見積時に算定した原価の総額に対する、当期において実際に発生した原価の割合を当期の工事進捗度とし、その工事進捗度を見積上の収益総額に乗じることで、決算期ごとの収益額を計上する会計処理。例えば見積上の総原価が1200万円、当期の原価が100万円、見積上の収益総額が2400万円の場合、当期の工事進捗度は100万円÷1200万円=1/12、当期の収益は2400万円×1/12=200万円となる。



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