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セミナーレポート
デジタルメディア作品の制作を支援する基盤技術について講演

 かねてより、日本古来の文化は海外に熱烈なファン層を獲得していたが、新しいコンテンツ―映画、ゲームやアニメーション、音楽など―も新たなファンを築いていることは、周知のとおりである。
 近年、コンテンツ作成には、いわゆる「サブカルチャー」と言われるものにとどまらず、その基盤となるCGアートや音楽などの制作についても、デジタル技術が大きく関わってきている。
 独立行政法人科学技術振興機構の戦略的研究推進事業「デジタルメディア作品の制作を支援する基盤技術」は2004年より音楽、映像などいくつかの領域に分かれて研究を進め、コンテンツの制作を支援するための基盤技術を開発している。
 同機構は2010年11月22日、「第4回領域シンポジウム 表現の未来へ」を開催。各研究領域の代表が、6年間にわたる研究成果について報告を行った。

講演の合間に行われたポスターセッションでも様々な技術が紹介された
講演の合間に行われたポスターセッションでも様々な技術が紹介された
 関西学院大学理工学部教授の片寄晴弘氏は、音楽方面における研究を紹介した。
 同氏は「音楽のエンターテイメントとしての立ち位置は、技術革新の大きな影響を受けている」と話す。そのため、音楽がデータとして流通するようになり、ユーザが気軽にコンテンツ制作にかかわれるようになった現在の状況を「『レコード』により距離・時間の制約がはずされた時に近いインパクトを持っている」と説明した。
 Vocaloid(ボーカロイド)に代表される「曲に合わせて、合成音声を使った自然な歌声を再現するソフト」が世に出て、すでに久しい。このような合成音声の登場は、これまで「作り手」と「歌い手」が存在して初めて成り立つという「曲」の概念を覆し、歌い手を介さず「作り手」のみで「曲」を発表できるようにした。
 片寄氏が研究を進めていた領域ではこの分野に着目し、「喋る声」と「歌う声」の違いを分析・抽出し、物理的な見地から「歌声」らしさを研究。まだ違和感のある合成音声による歌声を、より自然な音声に変えるためのソフトなどを開発している。
 今後は「話声を歌声に変える」「プロの歌を自分の声質で再現する」など、より効率よく、多くの人間が音楽制作にかかわれるような環境を作っていく、とした一方で「(効率ばかりではなく)人間の手間が入る余地を残しておく方が制作側としては面白くなる」と語り、今後開発するソフトの方向性を示唆した。

 立命館大学情報理工学部教授の田村秀行氏は「映画制作支援のための可視化技術」としてMR*1を利用した、プレビズ*2技術「MR-PreVizシステム」を紹介した。これまで映画では、本番前にCGを使って映画のシーンをラフに描くことで、撮影の事前検討を行ってきた。しかし、現実の空間ではないため、実際に撮影に入るとギャップが現れるなど課題も多く存在していた。
 「MR-PreVizシステム」は、実世界にCG を合成しながらカメラワークを実時間追跡できる技術を用い、屋内の美術セットや屋外のロケでプレビズが実行できるシステムだ。このシステムを利用することで、撮影前のキャストやスタッフへの意思伝達から、撮影後の編集作業まで、映画制作の各プロセスがこれまでに比べてスムーズに実行できるようになるという。
 同氏は「映画撮影のプレビズを街頭で行なったところ、提携企業の競合会社の看板が見えることに事前に気がつくなど、(リアルな背景を使うことによって)意外な副産物もあった。明確なスポンサがあるCM制作なら、さらに有効利用できることが考えられる」と話す。
 「研究レベルとしては世界最先端」(田村氏)ではあるが「対象となるシーンが単純過ぎた場合、MRを重ね合わせるための十分な特徴点が観察できない」「カメラワークが複雑過ぎる場合には、追跡が破綻する」などの課題点もある。しかし、同氏は「手法は今後も改良していき、さらに利用経験を積むことで、この課題点も十分に克服できる。希望するプロダクションや映画専門学校などにシステムを公開し、技術移転することで、映像業界が今後この技術を育てていってくれることを期待したい」と展望を語った。
松原仁教授は様々な角度からゲームの魅力を引き出す方法を研究した
松原仁教授は様々な角度からゲームの魅力を引き出す方法を研究した
 公立はこだて未来大学システム情報科学部教授の松原仁氏らが研究している領域では、ネットワーク社会において、例えば寝たきりになってしまった老人のQOL(Quality of Life)を向上させるような「オンラインゲーム」を提唱。「時間、場所、年齢、身体的制約など、様々な障害を軽減することがオンラインゲームのあるべき姿である」と話し、理想の姿である「ユニバーサルゲーム」を創り出すための研究を進めた。
 松原氏の研究領域では、インターフェイス*3インタラクション*4、社会システム、表現技術、有用性評価技術など幅広い視点から、「より安心・安全・快適」な「オンラインゲーム」にアプローチ。インターフェイスやインタラクションの工夫によって、より幅広い層が楽しめるゲームを作ることはもちろん、ゲームを使った子供への教育効果向上の実証実験なども行った。
 テレビ(PC)ゲームの誕生以来、子どもへの悪影響は幾度と話題に挙がるが、今回のシンポジウムでも会場から同様の質問が出た。同領域の研究では、歴史シミュレーションゲームによる「歴史への関心度の向上」、オンラインゲームによる「情報モラル教育」、ゲームソフトによる「漢字学習」などで効果があったという結果を語り、松原氏は「ゲームにも良い側面があることを実証できたと思う」として、研究成果に自信をにじませた。

 このような制作のための技術基盤開発のほかに「デジタルメディア作品の制作を支援する基盤技術」はメディア作品、つまり「アート」という性質上、いかに「一般の人や子どもに理解をしてもらえるか」という視点からも研究を進め、「展示」と言う形で研究成果を頻繁に公開している。
 その中で「機械技術とデジタル技術を駆使し、テクノロジーを見える形でアートにしていく」デバイスアートの展示会や、展示について、子どもからの感想や技術への希望などをその場でフィードバックする「予感研究所」といったアウトプット事業について報告がされた。
 そのほかパネルディスカッションでも、研究者が「遊び」の中から研究対象に没頭していった過程を話す視点から、一般の人や子どもにどのように研究対象へ興味を持つかについて討論が行われた。

 講演の最後に行われた質疑応答では「新しいデジタル技術などでコンテンツの作成を行うと、既存のアナログ技術と衝突するのではないか」という問いかけが会場から出たが、筑波大学大学院システム情報学研究科准教授の三谷純氏は「写真の誕生で風景画家は一時的に職を失ったが、替わりに抽象画などの新しい表現が出てきた。同じように新しい表現を誕生させるきっかけになるでは」と答えた。
 デジタル・アナログが持つ特長が、互いにぶつかり合うことでより良い表現の創出に期待したい。


※この講演とセキュリティプラットフォームは一切関係ありません。




注釈

*1:MR
複合現実感(Mixed Reality)の略。仮想世界と現実世界を融合させる技術全般のこと。現実世界に仮想世界を映しこむことに限定した「AR」よりも広義の技術を指す。

*2:プレビズ
美術セット、照明、VFXで合成するCGのレイアウト、俳優の演技の立ち位置やフレームインのタイミング等々、本番撮影の前に総合的にシミュレーションをする技術のこと。「カメラリハーサル」よりもより広範囲について事前検討を行う。

*3:インターフェイス
元来の英語の意味は「境界」「界面」などの意味。そこから転じて、PCなどに情報を入力する方式・手段のことを指す。

*4:インタラクション
ユーザ側から人力した操作に対してのシステム側のリアクションを、利用目的に応じた適切な設計をすること。




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