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セミナーレポート
経産省主催「科学技術と産業」国際シンポジウム2010が開催

 グローバル社会が深化するにつれ、温室効果ガスの増加、低炭素化社会を実現するための新エネルギーの開発、経済格差、伝染病など、世界経済の持続的発展の阻害要因となる地球規模の課題には、国境を越えた議論や取り組みが必要となっている。

 2010年10月6日、経済産業省主催「『科学技術と産業』国際シンポジウム2010」が、日本貿易振興機構(JETRO)運営のもと開催された。
 「地球的課題に対する科学技術と産業の役割」をテーマに、登壇者に1993年のノーベル生理学・医学賞受賞者で、ニューイングランド・バイオラボ科学研究部門最高責任者のリチャード・ロバーツ氏をはじめ、米国、スペイン、フランス、ブラジル、マレーシア、ケニア等、世界各国から有識者を迎え、医療・環境・経済といったアプローチから講演やパネルディスカッションが行われた。

ニューイングランド・バイオラボ 科学研究部門最高責任者 リチャード・ロバーツ氏
ニューイングランド・バイオラボ 科学研究部門最高責任者 リチャード・ロバーツ氏
 基調講演ではリチャード・ロバーツ氏が登壇し、気候変動、エネルギー資源をはじめとする地球的課題と経済活動に関する意見を述べた。

 低炭素社会実現のため注目されている新エネルギーはまだ新しい分野で、産業としての可能性を秘めている。ロバーツ氏は、そのひとつであるバイオエネルギーついて言及し、「バイオエネルギーは石油の代替エネルギーとして語られることが多いが、その真の価値は“ローカルな規模で発電できること”にある。地元で必要な分だけの電力を生産できるのだ。例えば庭で廃棄物等から発電するパーソナルユースの装置など、電球等への電力供給が十分まかなえるような研究がされている」と説明した。これらは、他の生産物の阻害にならず、ゴミが省け、地産地消することでエネルギーの収集・運搬の効率化ができるという期待が高い。

 しかし新エネルギーの開発が早期に実現されるためには、政治的施策が重要とロバーツ氏は語る。「気候変動をはじめ、医療や教育など、多くの分野において問題提起をすることは簡単。さらに科学技術的見地から解決策を探すことも難しくはない。ただ、各国の政策をはじめ、解決に向けて人々を動かすことはとても難しい」と話した。環境課題に関しても「本当に被害を受けるのは、自分達でなく子や孫の世代」と語り、次世代に恥じない取り組みが、持続可能な社会の実現のために必至であると強調した。
国立遺伝学研究所副所長の五條堀孝氏
国立遺伝学研究所副所長の五條堀孝氏
 医療セッションでは、「医療産業の可能性」と題して、講演とパネルディスカッションが行われた。

 国立遺伝学研究所の五條堀孝氏は、ゲノムの重要性について言及した。ゲノム情報の解明は医学やバイオテクノロジーの飛躍的な発展に貢献することが期待されている。
 五條堀氏は「1000人ゲノムプロジェクト」など、従来に比べて高速かつ廉価な新技術の登場により、飛躍的なスピードでデータ解析が可能になった現状について解説。さらに「これらの蓄積データを研究に活用するためには、データに容易にアクセスできる統合されたデータベースの構築が必要」と語る。ゲノム情報の解明は「疾患となる遺伝子の解明など医学分野のみならず、海洋微生物と周辺環境との相互作用といった世の中のあらゆる構成要素の解明が行えるようになる」とその可能性を訴えた。
アリゾナ州立大学バイオデザイン研究所 サステイナブルヘルス センター長のマイケル・バート氏
アリゾナ州立大学バイオデザイン研究所 サステイナブルヘルス センター長のマイケル・バート氏
 続いてアリゾナ州立大学バイオデザイン研究所 サステイナブルヘルスセンター長のマイケル・バート氏が登壇。同センターでは、“科学・経済学・政策を効果的に活用して、高い医療成果を発揮し、同時に医療コストを下げる”ということをミッションとして掲げている。
 バート氏は、医療器具の良例として「GE’s Vscan*1 」や「PATH Lab on a Chip*2」を紹介。これらは費用対効果が高く、世界中どこでも、また専門知識がなくても手軽に使用可能な器具である。「医療費の問題を医療制度だけにまかせるのではなく、いかにして科学技術が高い効果と低コスト化に貢献できるのか、根拠をもって示していかなればならない」と説いた。
経済セッションは「経済格差の解消」というテーマで講演やディスカッションが行われた
経済セッションは「経済格差の解消」というテーマで講演やディスカッションが行われた
  経済セッションでは、「経済格差の解消」というテーマで討論。イベロアメリカ*3事務局長で、前・米州開発銀行総裁エンリケ・イグレシアス氏は南米の経済と課題について話した。

 急成長を遂げるブラジルにあっても、まだ貧困層35%、ジニ係数*4 0.5という数字が表すように、所得格差が大きく一部に富が集中している状況だ。ここ5年間で少しずつやわらぎつつあるが、この現状を改善する最も大きな要素のひとつは、「教育」であると語った。
 イグレシアス氏は、取り組みの1つとして「2009年よりブラジル、メキシコ、アルゼンチン、ペルーといった国々において、子供が学校に通えていれば、国が家庭へ助成金を出すという制度を行っている」と紹介。「貧困の悪循環を断ち切るのは教育であり、そのためには産官学が一体となって取り組むことが重要」と語った。さらに大きな変革の要素として、地域間での協力体制を敷き「学校と親、地域が一体となる、住民環境を理解した地方自治体の取り組みも大きなイノベーションへの原動力となる」とその可能性を示唆した。

 その他、ニューヨーク科学アカデミー会長のエリス・ルビンスタイン氏からは、医療援助団体である「国境なき医師団*5」の活動意義について、さらにアフリカ穀物バイオテクノロジー国際基金CEOのフローレンス・ワンブグ氏からは、農業分野での活性化を目的に、日本も参加した「NERICA(New Rice for Africa)」プロジェクトなどが紹介された。各国の課題や施策が議論され、国境を超えた議論とともに、協力体制の重要性を再認識できたシンポジウムであった。 <写真提供:JETRO>


※この講演とセキュリティプラットフォームは一切関係ありません。




注釈

*1:GE’s Vscan
携帯型の超音波診断装置。インターネット接続が可能で、医師にデータを送信できる。

*2:PATH Lab on a Chip
血液サンプルを採取するプラスチック製の診断チップ。廉価に検査が可能。

*3:イベロアメリカ
スペイン、ポルトガルとラテンアメリカ間の協力促進機構。

*4:ジニ係数
所得格差の大きさを表す代表的な指標。0が完全に平等、1に近づくほど所得分配の不平等度が高いことを示す。イタリアの統計学者コッラド・ジニによって考案された。

*5:国境なき医師団
非営利の国際的な民間の医療・人道援助団体。危機に瀕した人々への緊急医療援助を主な目的とする。医師、看護師をはじめとする約4,700人の海外派遣スタッフが、約2万400人の現地スタッフとともに世界64ヵ国で活動している(2009年現在)。




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