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公認会計士松澤大之
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セミナーレポート
慶大KMDがメディアの今後について議論

 慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD)は2010年9月17日、東京都港区の同大学で「日本からGoogle、Facebook(のようなサービス)は生まれるのか」「マスメディアの将来はどうなるのか」といった世間でも関心の高いテーマを議論したシンポジウム「ダダ漏れしてもいいですか?」を開催した。
 会場のスクリーンにはニコニコ動画によって、会場の議論の様子がリアルタイムにネットで中継される(=「ダダ漏れ」)など、会場外にも“参加者”を募って行われた。
 進行役である中村伊知哉同研究科教授が設定する1つ1つのテーマ(=“お題”)に対して、各パネリストが議論するといった形式だ。

メディアデザイン研究科の
中村伊知哉教授が設定する
“お題”に対してパネリストが議論
メディアデザイン研究科の中村伊知哉教授が
設定する“お題”に対してパネリストが議論
 冒頭の“お題”は「日本からGoogle、Facebook(のようなサービス)は生まれるのか」。元NTTドコモでi-modeの生みの親であり、政策・メディア研究科特別招聘教授の夏野剛氏は、「日本の企業はお金、人、技術という“経営の三種の神器”と呼ばれている要素を、世界的な視点で見て十分に満たしている。特に技術という非常に重要な要素をアドバンテージとして持っている」と説明した。
 その上で、海外では経営者が指示を出さなければ、従業員が仕事をしないことが当たり前だと前置きし、「日本の場合は新入社員でも仕事がないと、仕事を探そうとする。こんなにすばらしい姿勢・労働環境はない」として日本の姿勢・労働環境を評価。こうした状況下に加えて、“経営の三種の神器”を持っているのならば日本からGoogle、Facebook(のようなサービス)の誕生は可能であるとした。ただ、日本人はリーダーシップが欠如しているのでこれを補うことが重要であると付け加えた。

 この意見に対し、メディアデザイン研究科教授の岸博幸氏は、「日本人は、海外から入ってきた技術を日本流に組み合わせてアレンジすることで、日本独自のものに変えてきた」としながらも、現在はそうした技術に陰りが見えるので、日本では難しいのではないかと指摘した。

 「携帯電話のガラパゴス化を日本は脱するか」という“お題”では、ドワンゴ代表取締役会長の川上量生氏が「携帯電話においては、米国のモデルが最新で、日本のモデルが後を追いかけていると思っている人が意外に多い」と感想を述べた。同氏は、携帯電話の世界では何年も前から日本の方が常に最先端であるとしたうえで、課金システムをはじめ日本の方が優れているものが多いため、ガラパゴス化から無理に脱しなくてもよいのではないかという見解を示した。

 また、「どこでもドアは実現するか―未来のものづくりに希望はあるか」という“お題”について、脳科学者の茂木健一郎氏は「海外に行くと非常によくわかるが、日本のコンビニエンスストアの店員は非常にまじめに働いている。日本人のまじめに『ものをつくること』は大いに武器になる」とした。そして今後も、日本のものづくりの伝統が有効に機能していくとするなど肯定的に捉えた。
脳科学者の茂木健一郎氏は
脳科学者の茂木健一郎氏は日本人の姿勢や気質を
評価し、ものづくりの武器になると意見を述べた
 茂木氏の意見に対して、元マイクロソフト日本法人の社長でメディアデザイン研究科教授の古川享氏は「日本はいいものをつくることができるが、プロデュースする人がいない。商品をPRしていく人-すなわちエバンジェリスト(伝道師)が不足しているため、いい商品がたくさん出ているにも関わらず誰も知らない」とし、日本の商品が、日の目を見るチャンスが無いまま眠っていることが多いと苦言を呈した。
 終盤の「マスメディアはどうなるのか、衰退していくのか。それとも影響力を持ち続けるのか」というテーマに対しては、古川氏が「取材をしたり記事を書いたりするのには魂をもった優秀なジャーナリストがいるが、そのアウトプット(発信の仕方)やデバイス(装置・道具)といったメカニズムが限界にきている」と発言。既存のメディアが衰退していくことは避けらないとした上で、新しいジャーナリストが新しいメディアの中で生まれてくることに期待したいと話した。

 一方、夏野氏は「新聞社は記事だけではなく、記録や自社サイトからの配信のため動画も撮影する。また、TVなどの放送局も映像制作の過程で、原稿を書く作業が発生する。どちらも制作の過程で共通のものが多いが、最終的にアウトプットの形が違うというのが現状だ」と指摘した。さらに、それならば新聞社と放送局の共通の作業を統合し、配信の仕方を選択できるようにしてはどうかと提案した。
 同氏は編集に携わっている人口が少なく、広告営業や総務部といった他部署の人間の方が多いといった新聞社の状況を言及。某新聞社に対して行った「シェアがトップの新聞社と差別化するために、文字を小さく、紙面を厚くし、大都市以外の配達は止めてネットでカバーしてはどうか」という提案が新聞社の横並び意識によって受け入れられなかったエピソードを、ユーモアを交えながら伝えた。さらに「雇用を守ることが先に来ると、変化ができない。雇用は二の次に考えるべきだ」と独自の理論を展開した。
政策・メディア研究科特別招聘教授の
夏野剛氏(写真中央)は旧来からのメディアに対して編集の
機能は評価しつつも、流通面を変える必要があると指摘
政策・メディア研究科特別招聘教授の夏野剛氏(写真中央)は旧来からのメディアに対して編集の機能は評価しつつも、流通面を変える必要があると指摘
 他方、同氏は新聞社などの旧来からのメディアについて、「様々な情報の中から、魅力ある情報を抽出することは大きな意義」とし、「編集」をしていくことの価値は十分にあるとしながらも、ディストリビューション(流通)を変えていかなければならないのではと見解を述べた。

 今回のシンポジウムでは1つ1つのテーマに対して、パネリストが肯定、否定の立場から会場にわかりやすく議論したことが印象深かった。会場のスクリーンに映るニコニコ動画による中継によって、リアルタイムで参加者からの感想が流れるなど、会場の参加者を飽きさせないよう工夫を凝らしていた。今後も、参加者を楽しませつつも、関心のあるテーマが分かりやすく「議論」されていくことを望みたい。


※この講演とセキュリティプラットフォームは一切関係ありません。




注釈

*:ガラパゴス化
生物の世界でのガラパゴス諸島における現象のように、文化や制度、技術やサービスなどが日本市場で独自の進化を遂げて、世界標準から掛け離れてしまう現象。


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