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公認会計士松澤大之
内部統制で変革すべき
は“個人の意識”
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セミナーレポート
「国民ID制度を考える」が開催

 国民の利便性向上につながるとして注目されている国民ID制度に関するシンポジウム「国民ID制度を考える」が2010年8月26日、慶應義塾大学で行われた。
 全国民に識別番号(ID)を割り当てることで、行政サービスの質や効率を上げることを目指す国民ID制度。6月下旬には同制度に関する政府文書が公表されるなど、動きが活発化している。今回のシンポジウムではそうした国民ID制度の方向性や課題について活発な意見交換が行われた。

 国民ID制度に関する政府の動向について、民主党衆議院議員の高井崇志氏が登壇。政府が進めている「社会保障、税に関わる番号制度に関する検討会」が6月29日に中間とりまとめを発表したことについて報告した。

国民ID制度の導入について、各界の有識者が意見を交換した
国民ID制度の導入について、各界の有識者が意見を交換した
 高井氏は番号制度について、利用範囲の設定が課題になっていることを公表。他国の例として、
1.税務分野だけの利用[ドイツ型]
2.税と社会保障(年金)など[米国型]
3.住民票、パスポート、免許証などまで範囲を広げ、行政からのお知らせが携帯、PCまで届く[スウェーデン型]
―を挙げ、国としての方針を探っている段階であることを述べた。
 同氏は「民間企業との連携にまでは至っていないが、まずは行政の範囲内で話し合っている」とし、前向きに検討が進められている旨を説明した。
民主党衆議院議員の高井崇志氏は
「社会保障、税に関わる番号制度に関する検討会」
の中間とりまとめについて解説
民主党衆議院議員の高井崇志氏は
「社会保障、税に関わる番号制度に関する検討会」
の中間とりまとめについて解説
 こうした政府の動きをふまえ、セコムIS研究所の松本泰氏は、個人が自発的に申請することで初めて行政がサービスを行うといった「申請主義」から、利用者が必要な情報を事前に登録することによって、行政が利用者にとって適切なタイミングでサービスを個別に通知するなど、行政側から能動的に提供する「プッシュ型」に移行するべきだと主張した。
 例えば、エストニアでは、電子データ交換レイヤー“X-road”で出産時に病院が出生届けを行政に転送する。それによって母親が手続きをしなくても児童手当や出産給付金が銀行口座に振り込まれる仕組みになっているなど、具体例を紹介した。
 松本氏は日本でプッシュ型の行政サービスを実現させる前提として、「個人情報連携のための『番号制度』を確立するなど、基本的な属性を管理することが必要だ」と訴えた。その他、個人情報保護法などの制度的なフレームワーク、韓国の行政情報共有システムに代表される個人情報を連携させるための情報交換基盤が必要になってくるのではと話した。
 インターネットにおけるユーザ認証技術である「Open ID」技術の国際化を支援しているOpen ID Foundation 副理事長の崎村夏彦氏は、国民IDを利用するメリットとして「国民IDの利用によって、国民が政府や行政から必要なサービスを安心して簡単に受けることができるようになる」と説明した。そのためには、1.本人だけが操作できる、2.それぞれのデータをどのような目的のために「いつ」、「誰に」提供したか確認できる、3.データの提供範囲を本人ないしは法律で認められた範囲において制御できる、といった「自己情報コントロール権」の確保が必要であると語った。
 同氏はこうした観点から、電子政府における認証手段としてIDを考えたときに、ある特定の認証手段を普及させることが目標ではなく、できるだけ早く、便利にサービスを提供することが目標であるとして、オープンで国際的な規格や枠組みが重要であるとした。

 一方、産業技術総合研究所の高木浩光氏は議論の参考として、すでに普及している携帯電話のIDにおける問題点を指摘した。
 高木氏は「ID自体で誰のものか特定されてしまうこと」に注目。「携帯電話のIDはそれ一つで全サービスを利用しているためリスクが高い」とした。同IDは不当料金請求(ワンクリック詐欺など)への悪用に利用されるケースが多発している。こうしたことから、個別ID送信方式は主に英語圏を中心に常に批判が高まっている。
 高木氏は「仮に国民IDを発行した場合、一般民間事業者が利用することは大丈夫なのか。それはプライバシー保護の観点から見てどうなのかを考慮する必要がある」と見解を述べた。

 また、内閣官房電子政府推進管理(GPMO)補佐の座間(ざんま)敏如氏はアドバイザーとして内閣官房に関わっている立場から発言した。同氏は社会保険オンラインシステム最適化評価ワーキンググループにいた経験などから、政府が把握している個人情報の中でも、既に実在していない人の情報も存在すると指摘。「ここ最近のニュースにあるように、高齢者の所在がわからなくなっていることが問題視されている。こうした問題が発生するなど、国民の情報が把握しきれていないのが現状だ。そういった状況にも関わらず、IDを発行したからといって国民の情報が全て保たれるとは思わない」とし、国民IDを発行すれば現状の問題が全て解決するということはないとした。
 さらに運用プロセスについて、国民1億3000万人がどうサービスを使えるようにするのか、最初に国民番号を渡すところから始まってどのようにスタートすればよいのか、変更・紛失といったケースにどう対処するのかといった課題を挙げた。
内閣官房電子政府推進管理(GPMO)補佐の
座間敏如氏は国民IDを発行すれば
現状の問題が全て解決するわけではないと指摘
内閣官房電子政府推進管理(GPMO)補佐の
座間敏如氏は国民IDを発行すれば
現状の問題が全て解決するわけではないと指摘
 今回のシンポジウムでは、国民IDに対する政府の動きを踏まえながら、どういった点に注意していく必要があるのか様々な角度から検討され、参加者の理解を深めた。実際に国民ID制度を実行した場合、「行政までか、民間までの範囲か」や、「携帯電話での認証も可能なのかどうか」など、まだまだ議論すべき点が多い。こうした話し合いを重ねてより利便性が高く、国民が安心して使える制度が築かれるきっかけになることを期待したい。


※この講演とセキュリティプラットフォームは一切関係ありません。




注釈

*:電子データ交換レイヤー“X-road”
エストニアで2001年に開発されたインターネット上で行政機関間や国民とのデータのセキュアなやり取りを保障する共通基盤


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