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公認会計士松澤大之
内部統制で変革すべき
は“個人の意識”
(動画あり)

新しい価値を生み出す「知の構造化」シンポジウムが開演

 東京大学 知の構造化センターは、2008年10月3日、本郷キャンパス小柴ホールにて、「知を再構成して価値を生み出す」と称し、最先端の研究者らを招いて講演を行った。現在、環境問題や教育などの多くの問題は様々な要因が絡み合い複雑化する一方で、学術分野はますます細分化が進んでいる。100年前は専門家同士が情報交換をすればほかの分野の情報が把握できていたのに比べて、現代では専門化・細分化が進みすぎて、研究者は隣の研究室で何が行われているかも把握していないという現在の状況を説明した。

 小宮山宏東京大学総長は「大学が得た知を社会に還元することは大学に課せられた使命であるが、知識が細分化された現状ではそれが満足にできない」と問題点を訴えた。ほか知の構造化センターのメンバーが細分化された知を有機的につなげる「知の構造化」と自らの研究の関係性ついて話した。


進化する教科書について語る美馬氏
進化する教科書について語る美馬氏
 知識の構造や繋がりを、単語基点で可視化する「MIMAサーチ」の開発者である工学系研究科の美馬秀樹准教授は「進化する教科書」について解説。一般に、教科の縦割りにより教科内容も分化されており、例えば、小学校の教科書では理科の教科書は理科の内容しか触れておらず、社会の教科書も同様でその分野についてのみ教えるようになっているという問題がある。
 
 しかし実社会では自動車を例に挙げて言えば「社会:排ガスが環境を汚している」「理科:ガソリンを燃やして走る」ということをあわせて「自動車が走ったときにガソリンを使い排ガスを出すから環境を汚す」という事実を関連づける応用力が大事であるとした。これに対し、美馬氏は2003年ごろ、小学校の教科書をすべてデジタル化し、重要な用語の抽出を行いMIMAサーチで関係を可視化することで、知識の関連を明確にし、学習や検索を効率的にするシステムを提案した。  
 
MIMAサーチによる知の構造の可視化
MIMAサーチによる知の構造の可視化
 また何千もの講義内容を載せた「シラバス」についても言及した。上述の知識の増加、細分化の問題は大学でも同様であり、あまりにも多くの講義があるため、シラバスを熟読することは不可能となっている。履修したい講義と関連するほかの講義を探したいとしても、講義内容まではわからないし、仮にわかったとしても情報の洪水の中から関係づけることは大変困難である。

  これに対し、美馬氏の開発したMIMAサーチは知識と知識、ドキュメントとドキュメントの関係を自動的に計算し、それを可視化するというツールだ。例えば「流体」に関係する講義を受けたいとすると、単純に「流体」がでてくるだけではなく、流体と関係する講義も一目瞭然となる。つまり「流体」に関する基本的な知識原理から、空気力学の応用知識までがどこにあるのかがわかるわけだ。
 
 そこで美馬氏はこのサーチエンジンとウィキ(Wiki)システムに注目し、その編集能力を使った「進化する教科書」について提案するに至った。ウィキシステムとは、一般のブラウザから直接、内容を編集可能なホームページが作成できるシステムであり、インターネット上のオープンな百科辞典であるウィキペディアでも利用されているものである。このシステム上で知識が作られると、作られた瞬間に検索や知識の参照、共有が可能なリアルタイム知識構造化を実現できる媒体が生まれる可能性を示唆した。

  ウィキシステム上にある教科書の目次からダイレクトに教科内容へとつながる、またブラウザ上ですぐに編集に入れるという敷居の低さや、ブラウザ上に編集した内容が即時に反映されるリアルタイム性など、今までの大学教科書の欠点を補うことができる。さらには、ある項目を別の人が参照し、MIMAサーチを使って合成を行うことで、新しい項目を供創的に作ることもできる。また、参照が少ないものは淘汰されるなど、常に“進化する”という紙媒体では実現が難しい特徴を兼ね備えている。

 今後は、更新される情報の質などの問題点を解決していくことで、理想の教科書の1つのモデルを作りたいという旨を示した。
 
「思想」のデータ化について語る吉見氏
「思想」のデータ化について語る吉見氏
 知の構造化センターの副センター長で情報学環長の吉見俊哉教授は「岩波 『思想』の構造化―コンピュータと人文知のあいだ」というテーマで人文の研究とPCによるデータ解析の応用について講演した。

 吉見教授は「知の構造化」に対する文系研究者のアプローチ例として、岩波書店が長年発行している雑誌「思想」の構造化について挙げた。1921年の創刊から、約90年間発行し続けられ、延べ16万ページにも及ぶ「思想」のデジタル化は容易ではない。そのために、まず重要なサンプル実験として、アカデミックな思想の中枢をなし、近代思想の爛熟期といえる1930年代の「思想」を選択し、デジタル化した。10年分に及ぶ「思想」のデータ入力後、単語ごとにMIMAサーチで分析した結果、用語の頻度の傾向から当時の知識の流れが図によって可視化された。
  例えば「満州」というキーワードで構造を可視化すると、満州事変の直後にあたる1932年にキーワードが集中していることがわかる。このMIMAサーチによる可視化された図の作成自体には人の手が一切介在しておらず、機械的に分類されたものであり、恣意的でない客観的な結果が示すことができると言える。
 
 今後の構想としては「思想」を創刊号からすべてデジタル化し、構造化する予定だ。吉見教授は「今回の研究だけでも人文系の研究家からすると驚くべき結果が出た。そのうち機械が論文を書く時代が来るかもしれない」と語った。
 もちろん情報の信頼性や歴史・蓄積の面での薄さなど、人文学系の研究を進める上ではコンピュータ利用にはまだまだ問題点がある。しかしMIMAサーチというツールを通して、哲学の知が新しく構造化され「文系や哲学の思想家がこの結果を前にしたときコンピュータで何ができるのかを真剣に考えるときが来たと思う」とした。
 
ネットワークの予測性について語る松尾氏
ネットワークの予測性について語る松尾氏
 工学系研究科の松尾豊准教授は「ウェブからの産業技術とイノベーションの構造化」としてエキスパートシステムで陥っていた「知識のボトルネック」をウェブ上で自動的に知識を抽出し、解消するための構造化・編集について話した。

 松尾氏は、まずある分野の研究者たちの、「研究分野の関係」や「対人関係」など取り出す構造化・ネットワークについて解説した。各研究者が自らの情報を入力することで「こういう研究者と会ったらよいのではないか?」「こういう講演を聴いたほうがよい」などという案内も表示することで、学会などで研究者同士が何を研究しているかを理解したり、コンタクトを取ったりするツールとして役立っている。ほかにも企業間の関係をウェブ上の情報から、業務関係、資本関係、訴訟関係(係争中or和解済み)などを瞬時に理解できるようにした図式化したものも作成。あるテクノロジーを取り巻く人や企業などの関係性が瞬時に理解できる図式となっている。
 また、現状のネットワークに欠けているものとして「予測性」があると松尾氏は語る。例えば、ここにAとB、BとCの2種類の関係があったとする。検索をしたとき、AやCからBはすぐにでてくる。ただしBを介してのみしかつながりのないAとCの関係はなかなか気付かれない。研究者や企業の関係も同じであり、間を介すればするほど関係性がわからりづらくなる。共通項目(上の例ではB)も検索項目に含みAから結果としてCを吐き出すような多重構造のネットワーク形成をするようなアルゴリズムを構築することが、今後「知を構造化」する時に重要になるとした。
 
 さらに各分野の有識者が自らの研究分野と「知の構造化」の関わりについて解説しながら「知の構造化」の問題点などについてパネルディスカッションが行われた。
 知識を整理する「知の構造化」自体が抱えている問題点として、まずシステムの利用には同じ知識の下地を持っていることが前提となることを挙げた。知識の傾斜が激しい現状において、大学生までの知識の連続として中学生や小学生などにも理解ができる汎用的な知識基盤となるツールを目指すことも課題とした。
 ほかにも集められた“知”が、実際に使われる場面での応用を考えるとまた新たな課題が出てくるということについても言及された。研究室では標準的な環境において考察をするが、実際の現場は様々な要因がからみ、研究室と異なる環境である場合が多い。

  例えばあるダムを建設するためにオオサンショウオの生態を調べたいとなったとき、研究者は通常の生態からの類推しかできない。その場所でのオオサンショウオの行動は実は地元の古老や漁師などの経験の方が正しい場合が多々あるのだ。そのような“知”も収集する必要があるとし、問題点の解消を訴えた。
 
 「知の構造化」のように知識を整理する機構は、まだまだ未熟でありピンからキリまで雑多な情報が氾濫するネットワークを牽引するツールとなり、現代のネット社会を飛躍的に躍進させる可能性を大いに秘めている。今後の研究成果にも注目していきたい。


※この講演とセキュリティプラットフォームは一切関係ありません。



注釈

*:MIMAサーチ
美馬准教授を中心に開発された「知の構造」を「可視化」するシステム。入力されたすべての情報を最先端の自然言語処理技術により自動解析。語句を入れてサーチを開始すると、入力された情報を元にサーチ対象語句との関係性を点と線とでビジュアル的に表現する。


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