セミナーレポート

知財戦略と「模倣と創造」の価値

日本知財学会主催のシンポジウムを取材

2013/7/11

 日本知財学会はシンポジウム「模倣と創造-イノベーションへの道」を2013年6月20日に開催した。企業で生み出される知識をどのように経営に生かすか、知財戦略をどう構築するかについて識者が講演した。

知財戦略に詳しい識者が集まった
シンポジウムの様子
知財戦略に詳しい識者が集まった シンポジウムの様子

知財戦略の重要性


 内田洋行相談役の向井眞一氏は日本企業の経営戦略について講演した。向井氏は自分たちの経営に慢心する状態を「ゆでガエル状態」と表現。「常に競争に勝つためにどうすればいいかを考えなければならない」とし、危機意識をもち、常に「イノベーション」を念頭において経営する姿勢が必要不可欠だとした。


 また向井氏は、新商品開発など同社がイノベーションによって得た知識やデザインを囲い込む知財戦略を重要視。デザイナーを同じフロアに同居させ、コラボレーションや共同研究をしやすいようにした「テクニカルデザインセンター」や、知財を経営に最大限に生かすための「知財戦略室」を設置した。その結果、同社が新しく提案しているオフィス空間において、国内・海外に150以上の特許・意匠の権利登録を行うなど、知財戦略が経営上の強みとなっている。


日本企業における「模倣と創造」


 弁理士の中島淳氏は日本企業における「模倣と創造」について講演した。中島氏は「人類の歴史は模倣と秘匿の繰り返しによって文明を発展させてきた」と説明。身近な例としてコンビニや百貨店など類似のビジネスを挙げ、ビジネスに不可欠な営業形態などは保護されておらず、模倣がなかば容認されているとした。


 一方、中島氏は創造を生み出す人材が日本ではなかなか育ちにくい点に言及。「日本社会においては、独創的な人間が現れないと言われているが、日本社会が要求するものに矛盾がある」と指摘。独創性と協調性は対極であるにもかかわらず、企業ではその両方が同時に求められる場合が多いと伝えた。

内田洋行相談役 向井眞一氏   東洋大学教授 山田肇氏
内田洋行相談役 向井眞一氏   東洋大学教授 山田肇氏

情報通信産業における知財戦略


 東洋大学教授の山田肇氏は、情報通信産業にみる独創と模倣について講演した。山田氏は知的財産高等裁判所が判決した48件の民事訴訟のうち、12件が情報通信産業関連となっている現状を紹介。山田氏は「これらに加えて、合法的に他社が保有する知的財産権を利用した製品を含めると、情報通信産業は“模倣製品の山”となっている」と述べた。


 この要因については「情報通信産業は研究開発の目標を設定するのが簡単。『より速く、より美しく』とみんなが同じ方向性で研究するので、パッチワークのように特許が存在する」と説明。1つの企業が独占権を主張すると、製品を供給できなくなるため、特許権を相互に使用許諾しているのが実情だ。結果的にたくさんの模倣製品がでるため、そのなかでどうやって利益を上げるかが重要となっている。


 また山田氏は動植物が食物連鎖のなかで安定的に循環するという意味の「エコシステム」という言葉が、情報産業にも使用されると紹介。ここでの「エコシステム」は多様なプレイヤーが多様な経済的依存・協調関係をもち、強者を頂点としたピラミッド型の産業構造が構築される様子を指している。


 山田氏はこのエコシステムのなかで利益を生むための戦略について言及。コンテンツ・プラットフォーム・ネット・ハードのいずれかの得意分野に注力し、知的財産権を大量に集積するといった手法があるとした。例えば米国の通信企業・クアルコムは毎年の特許料収入が全収入の約4割を占めている。同社は例年およそ3000億円~4000億円の研究開発投資を行い、さらに次の移動通信技術を開発するベンチャー企業が現れるとすぐに買収するといった戦略をとっている。これにより何世代にもわたって知的財産を集積しており、特許の強みによってビジネスを展開している。


 また別の戦略もある。4つの要素のどれかに注力し、自社のビジネスが守れる程度に知的財産の集積に留め、他の要素については競争相手と協力関係を構築するといったものだ。例えば、アマゾンは書籍のように製品を開発しているわけではなく、プラットフォームと顧客の購入履歴を必死に守り、強固なビジネスを展開している。同社はエコシステムの全体像を描き、その中で自社の事業領域を設定。競争相手に対して自社の企業価値を守り、利益を確保するシナリオを実践している。


 これらの戦略をふまえ、山田氏は「4つの分野にまたがって特許をとっても強みがない」と指摘。パナソニックやシャープのように様々な分野に多数の特許をとっているものの売り上げが低迷している日本企業を例示し「やみくもに知的財産権を集積しただけでは企業として成功しない」とし、知的財産権を最大限有効に活用することが大切だとした。


 企業において今や知財戦略は欠かすことのできないものだ。講演では情報通信産業において、知的財産を利用してどう利益を上げるかについて触れられており、業界関係者にとって大変参考になる内容だった。

 (山下雄太郎)

【セミナーデータ】

イベント名
:日本知財学会2013年度春季シンポジウム「模倣と創造―イノベーションへの道」
主催   
:日本知財学会
開催日  
:2013年6月20日
開催場所 
:政策研究大学院大学(東京都港区)

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