セミナーレポート

震災時に向けた通信インフラ整備の必要性

日本学術会議情報学委員会シンポジウムを取材

2012/7/26

 日本学術会議情報学委員会は2012年6月29日、震災時に備えた情報の扱い方や、通信インフラの在り方に関するシンポジウムを東京都文京区で開催した。

関係者がつめかけたシンポジウムの様子
関係者がつめかけたシンポジウムの様子

震災時における情報の扱い方


 東京大学情報学環教授の坂村健氏は、「震災における情報の扱い方」について、法制度という全体的な枠組みで講演した。坂村氏は、日本では情報の扱い方が平常時と災害時に分かれた議論に終始していることを問題視。今後は有事・平時に分けずに、両方の場合でも通用する技術と制度を開発していかなければならないと提言した。


 例えば英国では市民の健康情報をクラウドに入れて、緊急時に本人に確認しなくてもその情報を他者が見ることのできる法律が制定されている。同国では救急隊員に救助された人がゴムアレルギーであることを事前にわからなかったため、救助時にその隊員がつけていたゴムの手袋が原因で亡くなってしまったという事件が起きている。こうした法案が通れば、クラウドサーバに入っている個人情報を救急隊員が事前に確認することで、そうしたケースを防ぐことが可能となる。


 災害時であれば、こうした医療情報や個人の位置情報も利用することができ、それによって多くの命を救うことができる。「幸い、日本はクラウドサービスのようなインフラは十分整ってきている。あとは緊急時も視野に入れた法整備を一刻も早くやるべきだ」と坂村氏は指摘している。

東京大学情報学環教授・坂村健氏   KDDI取締役執行役員専務・嶋谷吉治氏
東京大学情報学環教授・坂村健氏   KDDI取締役執行役員専務・嶋谷吉治氏

災害時に備えた通信インフラの整備


 一方、KDDI取締役執行役員専務の嶋谷吉治氏は東日本大震災時の通信ネットワークの整備について解説。 震災発生後の約10分後に災害対策本部を立ち上げ、当日夕方には車載型基地局を東北方面に向かって出動させる対応を行ったという。また海底ケーブルの故障により、国際専用線などにサービス影響が発生したが、震災から4日後には迂回措置により復旧することができた。また、携帯端末の通信サービスは、福島原発の制限地域を除いたカバーエリアを2011年4月末に、品質レベルを震災前とほぼ同程度まで復旧させている。


 しかし、震災時ならではの課題も同時に浮き彫りになったという。前出の車載型基地局は出動したものの、避難者がどこにいるのかという情報がなかった。適切な基地局を建てる場所もわからなかったため、最初に自治体の許可が取れたところに立ちあげることになったという。


 こうした経験などを踏まえ、KDDIでは災害発生時における重要エリアの通信確保を最重要視。バッテリーの長時間化や太陽電池の活用などによる基地局電源の強化、車載型基地局の増強などを行い、災害がいつ起きてもいいように常時訓練していく。


 また緊急速報メールの配信や、災害時に役立つサービスの提供も震災を皮切りに強化している。その他、大規模災害発生時に迅速な避難や安否確認を支援する「auスマートフォン向けau災害対策アプリ」のサービスを開始。災害伝言アプリもスマートフォン向けに使いやすくするように努めている。


 嶋谷氏は「今回の震災で感じたことは『肉声による安否確認をしたい』という声が多かったこと。100年に一度の大災害に備えるような強固な通信ネットワークを築いていく必要がある」と実感。全国の店長に日頃から各自治体関係者と密に連絡をとらせているという。同氏は将来にむけた「災害時に関係者が情報を共有できる基盤をつくっていくことの重要性」を強調した。


震災時におけるロボットの可能性


 被災地におけるロボットの遠隔操作においても「情報通信」の技術が注目されている。国際電気通信基礎技術研究所の萩田紀博氏は震災時に被災地で使えるロボットについて研究。スマートフォンで遠隔操作することによって足の不自由な人の代わりにロボットに買い物に行ってもらうことを目標に研究を進めている。


 東日本大震災が発生し、情報通信の技術や制度を見直す機会も増えた。今回のシンポジウムは、震災に備えるためにどんなことが必要であるかを実感したものとなった。

(山下雄太郎)

【セミナーデータ】

イベント名
:震災直後および復興期における情報学の役割
主催   
:日本学術会議
開催日  
:2012年6月29日
開催場所 
:東京大学(東京都文京区)

【関連カテゴリ】

IT政策