セミナーレポート

求められる“知財人材”の育成

『日本の未来を担う知財人材育成』を取材

2012/7/12

 日本知財学会は2012年春季シンポジウム「日本の未来を担う知財人材育成」を2012年6月22日に東京都港区のTEPIA(一般社団法人高度技術社会推進協会)ホールにて開催した。知的財産(知財)分野の人材育成について、育成者と被育成者のそれぞれの視点から講演が行われた。

シンポジウムには大学関係者や企業の知財担当者が集まった
シンポジウムには大学関係者や企業の知財担当者が集まった

政府が掲げる知財マネジメント人材の育成


 冒頭では内閣官房知的財産戦略事務局長の内山俊一氏が講演した。同氏は知的財産に関する日本の情勢について言及。近年、液晶パネルやDVDプレーヤーの分野でパイオニアだった日本の家電メーカーが、自社の技術を内部構造までオープン化したため、アジア諸国でも日本と同等の製品をつくるようになり、日本の家電メーカーは価格競争に巻き込まれている。


 内山氏はそれを踏まえ、「国際標準化を含む『総合的な知財マネジメント』を進めていくことで、日本の国際競争力を強化することが急務だ」と強調。そのためには知的財産を戦略的に活用できる人材が必要不可欠とした。


 さらに内山氏は「大企業での知的財産担当者数の推移は横ばいだが、中小企業においては知的財産担当者が少ない」と指摘した上で、知的財産を事業戦略に活用できる“知財マネジメント人材”を育成する『ビジネス戦略知財アカデミー』を設立することを明らかにした。同機関には企業、大学、知財専門家(弁理士・弁護士)などが参画する方針だ。


育成する側からの視点


 シンポジウムでは、知財にかかわる人材を育成する立場の人が抱える課題について話し合いが行われた。大阪教育大学教授の片桐昌直氏は、そうした人材を育成するために、「学校」が知財の基礎知識やマインド形成に重要な役割を占めると説明する傍ら、小、中、高、大という全ての学校教育過程において、それらを育成するカリキュラムが不足している現状を指摘。特に大学の教養課程や中・高等学校で、知財に関する授業が圧倒的に少ないことを問題視し、これらの過程における知財教育を拡充させなければならないとした。


 一方、山形大学企画部教授の小田公彦氏は、高専*1が技術者を養成する場であると同時に知財教育を行う場として最適な環境であると指摘。近年、高専の学生がパテントコンテスト*2などで目覚ましい実績を挙げている点を評価し、高専の現場で知的財産教育を強化していくべきだとした。日本知財学会と連携して作成する高専用標準テキストを現場に導入し、さらに弁護士・弁理士のような外部の人材にアドバイスをもらうことを提案した。

内閣官房知的財産戦略事務局長・内山俊一氏   パナソニックエコソリューションズ・高橋恵利花氏
内閣官房知的財産戦略事務局長・内山俊一氏   パナソニックエコソリューションズ・高橋恵利花氏

育成される側の意見


 また、「育成される側」からの提言では、実際に企業で知財の現場にかかわっている立場の人が講演した。


 ユニチャーム知財法務部部長代理の地曳慶一氏は自身の体験を踏まえて解説した。地曳氏は1999年頃、特許交渉の場で、自分の知識・経験不足のため相手企業に「格下扱い」されていた自身の現状を反省。「絶対に交渉で負けないように自分もなろう」と決意し、2002年に米国ロースクール、2003年に東京大学知財人材育成オープンスクールに通う。ここで知財実務に関する“定石”と呼ばれる知識を吸収し、交渉・訴訟のリーダーとして知財の現場で活躍する下地を得る。同氏はさらに、これらの教育機関で優秀なクラスメートを世界中に得ることができ、自分の成長の度合い・立ち位置を測る物差しが得られたという。その結果、「知財が会社を変えていくことができるのではと期待をもつことができた」とのことだ。


 地曳氏は「知財人材の理想的な育てられ方」として、手に届く目標ではなく、“やや背伸びした目標”をもつことが大切だと力説。さらに、特許出願、特許係争、模倣品対策といった具合に、OJTによる業務の難易度を上げることで仕事をこなせる範囲を徐々に増やしていくことを聴講者にすすめた。他にも目標と現実の間を埋めるギャップを常に知るためにも、卒業後も自分が受けた教育機関のクラスメート・講師などと密に交流を図ることが強みになるとしている。


 また、パナソニックエコソリューションズ知的財産グループの高橋恵利花氏は、弁理士の資格取得とその後のキャリアイメージについて講演。同氏は自身が広告業界にいたときに企業CIに関わった体験から、「特許やブランドが、モノづくりとモノ売りのキーになる」ことに気が付き、弁理士になるための勉強を始めたという。


 同氏はまた、資格取得後の目標について提言。弁理士が企業で活躍するためには、自分の将来像としてどれだけ「こうなりたいという姿」に信念をもっているか、どれだけ周囲の人にそれをわかってもらえるか、組織内外で独自のネットワークをもっているかがキャリア形成の明暗を分けるとした。そのうえで、「将来的に知財担当者にも経営者と同等の知識、発想は必要になってくる」とし、それを意識してOJTで経験を積むべきだと話した。


 技術力があるが国際標準化の分野で後れをとっている日本の現状を考えると、知的財産の分野で国際的に活躍する人材育成のテコ入れは急務だ。優秀な人材を育成していくためにも同シンポジウムのような「育成する側」と「育成される側」の意見交換の場を設けてほしい。

(山下雄太郎)

注釈

*1:高専
高等専門学校の略。高度な専門技術を教え、優秀な技術者を育てることを目的としている。入学資格は中学卒業者で修業年限は5年。卒業すると大学3年次に編入学することができる。

*2:パテントコンテスト
文部科学省・特許庁らが毎年共催している、高校生・高専生を対象としたアイデアの独創性を競うコンテスト。優秀なものは特許出願を経て特許権を取得することで実際に活用されることになる。

【セミナーデータ】

イベント名
:日本の未来を担う知財人材育成
主催   
:日本知財学会
開催日  
:2012年6月22日
開催場所 
:TEPIAホール(東京都港区)

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